松沢呉一のビバノン・ライフ

中国は失敗したと言えるのか?—「民主主義は後退していない」と主張するニューズウィークの記事を検討する[5](最終回)-(松沢呉一)

アンチ・ロックダウンを批判しながらBLMを肯定する論理—「民主主義は後退していない」と主張するニューズウィークの記事を検討する[4]」の続きです。

 

 

 

中国に対しても一面的な見方を貫く記事

 

vivanon_sentenceニューズウィーク日本版の「コロナで民主主義が後退する」という予想が当たらなかった3つの理由と題された記事は、中国についてこう書いています。

 

新型コロナ封じ込めの成功を受けて、中国は「マスク外交」によるソフトパワー獲得に乗り出したが、大半の国がそっぽを向いている。当初、抑制に失敗して世界にウイルスを拡散させ、その原因がおそらく秘密主義の独裁的体制にあるせいで、中国的な政治モデルへの疑念は膨らんでいる。

 

不良品の中国製マスクを送り返したのはヨーロッパの国々な。「大半」と言えるかもしれないのはそこまで。アフリカ諸国がどれだけ中国製品に頼ったのか。

ワクチンも同様。中国産ワクチンに対しては一部で反対が起きていますし、なお使用については慎重な国もありますが、契約をしていますし、欧米のメーカーのワクチンは回ってきませんから、アフリカやラテンアメリカ、アジアの多くの国で使わざるを得ないでしょう。

たしかにさまざまな点で中国に対する批判は強まりました。アフリカでさえ差別国家中国への反発は強まってます。これをもって「民主主義が強化された」とまとめるのは大きく2点から間違ってます。

ひとつは、中国の思惑通りに進んだ点もあるってことです。ロックダウンという方法、マスクの義務化は中国が始めたことであり、マスクの効果が不明な時点でも、それに追従した国が多かったわけで、近代の歴史の中で、これほどまでに中国が影響を持ったことはないでしょう。

中国が力を持つことは確実に民主主義が後退する。その仕組みはこれまでに書いてきた通り。

※2020年11月2日付「REUTERS」 ブラジルでの反中国製ワクチンのプロテスト。中国製という点だけでなく、政府が義務化を検討していることに対しての反対も含まれています。いかにその発生が少なくとも、副作用があることは明らかなのだから、強制はダメでしょ。接種したくない人はしなくていいことを前提にして、私はワクチン賛成であり、強制するなら反対。個々人の判断ができるような方向にならないこと自体が反民主的。

 

 

中国を甘く見過ぎ

 

vivanon_sentenceいかに反発する国が多くても、あの国のやり方は現実に追認されてしまっているわけで、中国が徹底した自由の制限によるウイルス対策をしていなかったら、果たして世界は、ああもロックダウンをし、マスクの義務化を実施したかどうか。手本になってしまったところがあるのだと思います。日本においても、中国のやり方は民主主義を無視して成立していることを忘れて、中国の防疫体制を手放しで肯定した人が多数。

日本はいい国」と言い続けたい私の敵です。

また、批判すべき点も批判できず。中国の金の奴隷となった政府がどれだけあって、奴隷となった個人がどれだけいることやら。

中国自体がいよいよ世界支配の野望を実行に移しつつあるとも言えて、それに対していくら批判をしても香港はああなったわけですよ。民主主義国家の力ではもう止められない。

いかに批判しても武漢で何が起きたのかもわからず、いかに批判してもウイグルの強制収容所は存続し、いかに批判しても内モンゴルのプロテストはあっという間に潰され、いかに批判しても国内の民主派勢力は逮捕されているのです。その現実をどうして見ないのか。SLATEらしくなくなるからでしょうか。

 

 

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