セルビアに見る左派と右派のアンチ・ロックダウン—ポストコロナのプロテスト[83]-(松沢呉一)
「バルカン半島は難しすぎる—ポストコロナのプロテスト[82]」の続きです。
セルビア政府は感染者数と死亡者数をごまかしていたとの説
では、セルビアの感染者と死亡者の推移を見てみましょう。
2021年1月11日付「worldometers」
ここで注意。
セルビア政府は、数字をごまかしていたとの指摘がなされています。政府は認めていませんが、6月までの実際の数字は2倍から3倍あったとされていて、医療関係者でこれを批判している人たちがいて、コロナ対策委員会のメンバーでも、ミスがあったとして認めているのがいます。このグラフの数字は修正されていないものです。
意図的なものであれ、ただのミスであれ、調査して、間違いがあったなら訂正する必要があるでしょう。
数字のごまかしは陰謀論か選挙対策か
中国やベラルーシのような独裁権威主義国ではないですから、セルビアでそこまで行政が政府に従って数字を大々的に操作するのかどうか疑問もありながら、大々的に操作していたから、操作がばれて批判が出ているとも言えて、この真偽は私には判断ができません。
この説をとる人々は、政府が感染者や死亡者の数字をごまかしていたのは選挙戦のためだと主張。選挙戦を闘いやすくするために規制を解除し、スポーツなどのイベントも行なわれるようになって、国民には政府の対策がうまくいっているのだと見せかけ、選挙に勝利するや大々的に祝賀イベントをやりながら、すぐにロックダウンしたのは、その批判を封じるためと、規制をゆるめたことによって感染者が増大したことをごまかそうとしているのだという主張です。
たしかに数字はその通りに推移していますが、こういうのは数字をもとに論が組み立てられるので、合致しているのは当然です。
という説があることを紹介するに留めるとして、アンチ・ロックダウン派の多くは、以上の論から数字のごまかしを除いて、「選挙対策のために規制をゆるめていて、それが理由で感染拡大したら、今度はロックダウンかよ」という反発をしています。
アンチ・ロックダウン側が「対策をしっかりやるべきだった」「ロックダウン反対」という一見矛盾する主張をしているのは、以上のような論理です。
政府としては「現に数字が下がっていたので規制をゆるめていたら急増してきたのでロックダウンをする」ということであり、7月7日、政府は7月10日からロックダウンを実施すると公表して、例の騒ぎになります。
※NDMBGDのサイトより、7月7日のロックダウン発表に対してすぐさま出されたと思われる抗議声明のページ。バナーに書かれた「убице」はセルビア語で殺人者の意味。ヴチッチ大統領のことでしょう。左側の人はマスクをしています。
ヴチッチ大統領の主張
こうして右派左派ともに怒りが爆発。なにしろ政府の発表からわずか数時間であの騒動になっていますから、怒りが沸点に達していたところに油を注いだわけです。
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