アンチ・ロックダウンは陰謀論者や右派によるものという決めつけの間違いをセルビアに見る—ポストコロナのプロテスト[81]-(松沢呉一)
「マスクをしていないからって陰謀論者だと決めつけるのはやめれ—ポストコロナのプロテスト[80]」の続きです。
議事堂突入寸前だったセルビアのプロテスト
去年の7月、やたらとYouTubeがブッシュしてくるので、セルビアのプロテストはチェックしてました。
テロップにもタイトルにも出ているように、これはアンチ・ロックダウンの行動です。
この建物は議事堂であり、米議事堂突入と重なりますが、違う点もあります。火炎瓶も飛んで機動隊が劣勢のようにも見えますが、辛うじて機動隊は守り切りました。やっぱり米議事堂は警察が手薄すぎたのではなかろうか。その果てに射殺するのでは、中国にバカにされても仕方がない(米議事堂突入グループには武装していたのもいたようなので、だったらしゃあないかとも思うけれど、その前に防げたのではなかろうか)。
続いて、米国ではマスクしている人が少なかったのに対して、こちらでは3割から4割くらい、場面によっては半数以上の人がマスクをしていることに注目。
セルビアでは3月からマスクの義務化が実施されていて、小売店や飲食店では、従業員にマスクを着用させる義務が雇用者にあります。一般には公共交通のみが常時マスク着用。それ以外の屋内はソーシャルディスタンスを保てない場合のみ着用。屋外はバスの停留所や屋外店舗など特定の場所のみソーシャルディスタンスを保てない場合に着用。
10月になってから、広く屋外もマスク着用が推奨されていますが、これは推奨のみ。
細かく規定が変化しているので、正確に読み取れていないかもしれないですが、規定の場所以外の屋外については義務化はなされていないと思われます。
7月の段階では、屋外のプロテストでのマスクは推奨さえされておらず、マスクをしている人は自分の意思でつけているわけです。覆面の意味もあるかもしれないですが、彼らは「ウイルスは捏造された」などと主張するプランデミック派≒アンチマスク派ではないことを示しています。この中にもプランデミック派は確実にいるのですが、それだけではないってことです。
テロップに極右(far-right)と書かれていて、この時に中心になっていたのは、国家主義や民族主義の右派グループだったのですが、報道によると、フーリガン、パンクス、左派も含まれていたようです。あえてまとめるなら暴れん坊。
※2020年10月16日付けのセルビア政府のサイトより、公衆衛生研究所が屋外でのマスク着用を推奨したとの内容
プロテストのきっかけは左派市民団体
この日の行動を最初に始めたのはネ・ダ(ヴィ)モ・ベオグラード(NDMBGD/Не да(ви)мо Београд)という団体です。「ベオグラードを溺れさせない」と「ベオグラードを譲り渡さない」というふたつの意味を掛けているようです。
このために結成された団体ではなく、以前から活動をしている左派市民団体で、当選はしてないですが、選挙にも出ていて、反ヴチッチの行動も積極的にやっています。
サイトを見るとわかりますが、環境問題に重きがあり、あとは民主主義、人権、LGBT、女性問題といったところがテーマで、EU寄り。ヨーロッパ各国の緑の党とも連携しています。
ホモフォビア剥き出しの正教会が力を持つ国でLGBTの擁護をしているってだけでシンパシーを感じます。
「ベオグラードを溺れさせない」というフレーズはいろんな意味で使用されていて、「ベオグラードを大気汚染で溺れさせない」といった具合。
環境派にもプランデミックはしばしばいますが、サイトを見る限り、ここはそれとは無関係で、ワクチンについての冷静な記事も掲載されていて、この人たちは右派よりさらに高い率でマスクをしています。
ここに極右勢力がやってきて、上の騒ぎになったものであり、現場にいた人によると、99パーセントはネ・ダ(ヴィ)モ・ベオグラード等、平和的な抗議をする人々で、1パーセントの組織化された極右によって議事堂乱入が試みられたとのことです。
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