松沢呉一のビバノン・ライフ

ボビ・ワイン(ロバート・キャグラニー)はウガンダを変えられるのか—ポストコロナのプロテスト[86]-(松沢呉一)

ロックダウンの分類とマダガスカルのプロテスト—ポストコロナのプロテスト[85]」の続きです。

 

 

ミュージシャンのボビ・ワイン、政治家のロバート・キャグラニー

 

vivanon_sentenceウガンダの大統領選の話はもうちょっと事情が明らかになってからの方がよく、ここ数日、このシリーズを続けてしまったことでもあるので、もっとあとで出す予定だったのですが、たった今注目しておいた方がいい内容なので、わかっているところまでまとめておきます。

 

アフリカの音楽についての私の興味は偏りが激しくて、エチオピアン・ポップスくらいしか知らず、昨年急にナイジェリアのポップスについて関心を抱き出したところで、それ以外は今もほぼ無知。

ウガンダにボビ・ワイン(Bobi Wine)というラッパーにしてシンガーがいますが、最近まで知りませんでした。

この人です(サムネイルの人ではなく、歌っている人ね)。

 

 

 

彼はスラムの出身で、このMVを見れば想像できるように、教育、医療、貧困などをテーマにした社会活動も積極的にやってきて、絶大な人気を得ています。

本名ロバート・キャグラニー(Robert Kyagulanyi Ssentamu)としても知られ。本名で俳優としても活躍し、主演映画「Situka」も撮られています。

全編YouTubeで公開されています。英語です(ウガンダは英語とスワヒリ語が公用語)。

 

 

 

 

一般向けの劇映画というより、民主主義の啓蒙映画といったところです。エンドロールが途中で切れてPEOPLE POWER OUR POWERというロゴが出てきますが、これは彼が主導する運動体です。おそらく彼自身で映画の権利を買うなりなんなりして自身で公開したのだと思われます。

スラムに住み、政治になんの期待もしておらず、変えることなどできないと思っていた主人公が、理不尽な不正に直面して目覚めていき、やがては選挙に立候補するというわかりやすい内容です。

注目すべきはウガンダ人女性は脇毛を剃っていることです。全部が全部ではないかもしれないですが。脇毛を剃る文化はすぐに定着するのに、なぜ民主主義はなかなか定着しないのかというところが見所です。脇毛は伸ばしたままでもいいので、民主主義も伸ばせと。こんなことを書くと怒られそうですが、最初から最後までしっかり観た証拠ってことで。

この映画は2015年のものなのですが、この内容通りにボビ・ワインは2017年にカヤドンド東部(Kyadondo County East)の補欠選挙に立候補して、他候補に大差をつけて当選しています。つまり、ボビ・ワインは政治家でもあるのです(地方議員ではなく、国会議員の補欠選挙だと思います)。

彼はTwitterを使っていて、国内だけではないでしょうが、フォロワーは112万人。

 

 

 

 

政治家としては本名のロバート・キャグラニーなのですが、名前がふたつあると混乱するので、以下、ボビ・ワインで統一します。

 

 

虐殺者→虐殺者→虐殺者返り咲き→独裁者

 

vivanon_sentenceこの時の敵対候補の1人は、国民抵抗運動(NRM/National Resistance Movement)に属する候補。

国民抵抗運動はヨウェリ・ムセベニ(Yoweri Museveni)大統領を党首とする政権党です。アフリカの暴れん坊と呼ばれ、数十万人と言われる反対派を虐殺した悪名高きイディ・アミン(Idi Amin)大統領を倒すべく、ヨウェリ・ムセベニは 国民救済戦線(FRONASA/The Front for National Salvation)を率いてゲリラ戦を展開し、国民救済戦線他の反体制ゲリラ組織とタンザニア軍が連携して、1979年にアミンを追放。

これ以降も混乱は続き、アミンの前の大統領であったミルトン・オボテ(Apollo Milton Obote)が選挙によって大統領に返り咲きますが、オボテ大統領も虐殺者であり、復帰後も虐殺を繰り返し、最終的にはアミンよりも多くの人を殺したと言われます。こちらも数十万人。

ヨウェリ・ムセベニは国民抵抗軍(National Resistance Army)として政府軍と対決し、ウガンダ・ブッシュ戦争(Ugandan Bush War)勃発。1986年に終結し、オボテは亡命し、ヨウェリ・ムセベニが大統領に就任。この時に国民抵抗軍は政党の国民抵抗運動になって、以降ここまで政権党の座にい続けています。

ムセベニ大統領は民主主義体制にすることを約束し、それまでの政権に比較すると、はるかに民主主義を実践していくのですが、やがて権力に執着し始めます。反対勢力潰しにも力を入れていくことになり、不正選挙との批判もたびたび出ています。憲法を強行に改正して、大統領就任期限や年齢制限を撤廃し、永続的に自身の政権を維持できるようにしました。

独裁政権の完成。結局これかよって感じです。

※Wikipediaよりヨウェリ・ムセベニ

 

 

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