今度こそ滝野川・稲荷湯へ—新・銭湯百景[8]-(松沢呉一)
「新年早々朝湯を求めて—新・銭湯百景[7]」の続きです。
正月に入りそびれた稲荷湯へ
「不要不急」か「不急不要」か、どっちかわからなくならないっすか。どっちも使われていますが、辞書に採用されているのは「不要不急」です。どっちかと言えば、私は「不急不要」と言いたくなります。まっ、適当で。
緊急事態宣言が出ると、連日、なんとしても不要不急の外出をしてやろうと思うわけですよ。私なりのプロテスト。
先週の金曜日も不要不急の連続技で、気づいたら池袋の六ツ又交差点にいまして、ここからちょっと脇道を入ると、正月の朝湯の候補になっていた稲荷湯です。豊島区の方の稲荷湯。どうせだから不要不急で稲荷湯に入っていくかと思って前まで行ったのですが、だったら入りそびれた北区の稲荷湯まで足を伸ばすかと不要不急で決定して、滝野川までさらに歩き続けました。
けっこう距離がありましたし、ちょっと迷いましたが、人に道を聞いて辿り着きました。正月は朝でしたが、夜のこの路地はまた格別です。
ここは深夜0時半までやっています。緊急事態宣言中も通常通りの営業だそうです。不要不急の庶民の味方。
その方が燃料費が節約できて都合がいい銭湯は短縮すればいいとして、そうじゃないなら従う必要はこれっぽっちもない。
6年以上前に来て、その直後に改装され、それから初めての入浴だったわけですけど、建物はそのままで、サッシやタイル、浴槽がきれいになったのかな。
洗面器は木桶です。重いのが難点と言えば難点ですが、木桶は音の抜け方がいい。スコーンと響きます。
浴槽は3つあって、「熱湯」「ぬる湯」といった表示はないのですが、白濁した浴槽だけデジタルの温度計で、39.5度になってます。入浴剤ではなく、細かな泡で白濁しているのだと思います。高円寺の小杉湯のシルク湯と一緒。
寒い日にいきなり熱い湯に入ると、実際以上に熱く感じられる上に、なぜか寒気がします。なんでなのかわからないですが、体の温度調整に伴う錯覚なのだろうと思います。
徐々に慣らすのが高温勝負のコツです。茹で蛙の要領です。まずは白濁した湯に入りました。たしかに40度前後って感じです。夏場はいいとして、この温度に長く入っていると寒い。
続いて真ん中の浴槽。おー、いい湯です。温度計は42度になってますが、43度以上ありそう。
やはり稲荷湯は強敵だった
その勢いで、6年ぶりに熱い浴槽にチャレンジです。
「湯の中で身体をひっかいたり、かきむしったりしないようにお願いします」と貼紙がしてあります(正確な文言ではありません)。
温度計は46度。
「アツアツアツ」
これこれ、これですよ。久しぶりにこの熱さを体験しました。嬉しいのですけど、下半身を浸けただけで、すぐに出ました。
私は「10秒ルール」を採用しているので、湯の中で10秒カウントする必要があります。子どもか。しかし、第一ラウンドは10秒は入れませんでした。3秒くらい腰まで浸かって降参。
温度計通り46度あるかもしれない。
前に来た時より熱いのではなかろうか。はっきりとした記憶ではないですが、前はムチャクチャ熱いながらも入れないってことはなかったはずです。外が寒いために体感が熱いのかもしれない。
心頭滅却して事に当たらなければならないので、体を洗って、ヒゲを剃って体勢を立て直します。
※入口がまた古い銭湯らしさをふんだんに装ってます。正面は富士山のタイル絵。大きめの水引暖簾もいいでしょう。
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