松沢呉一のビバノン・ライフ

ムセベニ大統領が不正をした可能性はある。しかし、不正の証明は難しい—ポストコロナのプロテスト[89]-(松沢呉一)

ボビ・ワインの完敗か、それともムセベニによる不正の勝利か—ポストコロナのプロテスト[88]」の続きです。

 

 

EU監視団によるヨウェリ・ムセベニの不正の可能性

 

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前回の最後で「もうちょっと落ち着いてから続きを書く」としましたが、1月19日現在わかっている範囲のことを書く分にはいいか。

私が票数をごまかすという意味での不正選挙という批判はやめた方がいいと思ったきっかけは、「ムセベニが票をごまかすことを前提にしていたとしたら、何もあそこまで汚い手を使って選挙妨害をする必要がない」と考えたためです。正々堂々と闘ったポーズをして、裏でこっそり調整すればいい。

とは言え、数字のごまかしにも限界があって、あらゆる手を使うこともあるでしょう。

もう少し何か根拠になるものが欲しい。ここでひらめきました。前回の大統領選ではEUも米国も監視団を入れているのですから、その報告書を 見ればある程度のことはわかりそうです。

以下がEUの報告書です。

 

 

European Union Election Observation Mission「Uganda Presidential, Parliamentary and Local Council Elections, 18 February 2016

 

 

大部のものなので、サマリーしかチェックしていないですが、結論を言うと、「民主主義的な選挙の原則を満たしていない」ってことです。

「政府予算が現職ムセベニと国民抵抗運動(NRM)に使われていて、与党の露出が野党の何倍も多い」「警察による野党に対する威嚇的、威圧的な姿勢」「選挙委員会の独立性・透明性の欠如」「インターネットの遮断等、有権者が情報にアクセスすることの妨害」「メディアへの圧力、ジャーナリストの逮捕」といったことが挙げられています。

今回と一緒です。

票のごまかしがあったかどうかについては、不正を示唆する事実、たとえば「封印されていない投票箱が20%あった」と指摘されているのですが、透明性が低すぎて、確認しようがないというところです。

カウントは機械によってなされていて、そこは透明としているのですが、その前に与党候補の票を紛れ込ませたり、入れ替えたりしてもわからない。

しかも、投票所別の数字が公表されないため、出口調査をやって照合をすることも難しいようです。

EUはこれらに対しての改善を求めたのですが、ひとつとして改善がなされないため、今回は監視団を送らないとの決定をしました。

つまり、今回も選挙の体をなしていないってことです。

その点については不正選挙と言って何ら問題はない。しかし、監視団も数字に不正があることの決定的証拠はつかめない以上、ボビ・ワイン陣営が証拠をつかむことは難しい。ボビ・ワインが隠し球を持っているとすれば、選挙管理委員会に人を潜入させたか、内部告発があったか。

※この報告書にはさまざまなデータが出ていて、ここに出したのは、各テレビ局がそれぞれの候補にどれだけ時間を割いたかを示すグラフ。一番下のNTVが公平な扱いをしていますが、ここはケニアを拠点に、東アフリカで展開しているテレビ局で、アフリカのニュースをYouTubeで観ていると、しばしばNTVの映像に出くわします。公正な報道をしているだけにムセベニには目をつけられていて、2016年の大統領選では何人もの記者が逮捕されています。

 

 

事前の世論調査の数字

 

vivanon_sentenceもうひとつ、投票の結果が出たことによって、批判が沈静化したように見えるのは、以上の不正(数字に不正があったという意味)の余地を考慮しても、ボビ・ワインが勝っていた可能性は低いってことがはっきりしたからだと思います。

選挙前には世論調査が行なわれ、政党による調査では信用できないですが、ウガンダの調査会社であるResearch World International(RWI)が事前に数字を出しています。

 

 

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