松沢呉一のビバノン・ライフ

マスクによって感染率が変化するかどうかを調べたデンマークの報告書—ポストコロナのプロテスト[104]-(松沢呉一)

ミンク大虐殺とデンマークの黒い人たち(MIB)—ポストコロナのプロテスト[103]」の続きです。

 

 

 

マスクには効果があるような、ないような調査結果

 

vivanon_sentence前に見たように、デンマークは飛行機や飛行場でマスク着用が義務づけられていただけでしたが、10月から屋内の公共の場全域に拡大されています。しかし、屋外はいまなお対象外のため、多くの人は路上でもマスクをつけておらず、口を隠しているのは防寒のためか、顔がわからないようにする覆面だと思えます。

マスクについてはデンマークで興味深い調査が行なわれています。

 

 

2020年11月18日付「Annals of Internal Medicine

 

では、前回の冒頭に書いた質問の回答編です。

2020年の4月から5月にかけて、1日3時間以上外出する協力者を募り、感染していない約6千人のうち、約3千人は外出時につねにマスクをし、約3千人はつねにマスクをしない行動をとった場合に、感染率が変化するかどうかを調査したものです。

昨年11月にインターネットで公開されていて、なぜ調査から半年も経ってから公開されたのかは不明。

マスク・グループが使用したマスクは調査チームの提供による共通のサージカルマスクです。両グループへの振り分けはランダムです。その時点ですでにマスクをしている人は手洗い、アルコール消毒、ソーシャル・ディスタンス等においても注意している可能性がありますので、現在どうしているかを基準にするとノイズが入りやすい。その時点でデンマークでマスクを日常的に使用している人は5パーセント以下でしたから、ほとんどいないのですけどね。

「マスクをしなければならないのにしなかった」「マスクをしてはいけないのにしてしまった」という人たちが大量にいたようで、1ヶ月のテスト期間を終えて、有効だったサンプルは計4,862名。2割以上が脱落です。

テスト期間終了時に再度検査をして、うち感染率はマスク・グループは1.8パーセント、非マスク・グループは2.1パーセントという結果でした。

結論は「統計的に有意な差は得られなかった」。

この差は誤差の範囲ってことです。

 

 

やっすいマスクや手作りマスクにウイルス防止効果はほぼない

 

vivanon_sentence注意深く「この調査をマスクの無効性を主張するために使わないで欲しい」旨が記載されていて、この調査はマスクの効果がないと断定できるものではありません。だから私も見出しに「ほぼ」をつけておきました。

誤差かもしれないけれど、この条件下でこの程度の効果がある可能性をなお残してはいます。しかし、この条件下においては一般に信じられているほどの効果はないと言っていい。ここは確定。

効果があるのだとしても、せいぜいマスクなしが10人感染する時に、マスクをしていれば9人で済む可能性があるかもしれないって程度。大きな母数で見た時にはこの差も軽視できないですが、たとえば「マスクをしていれば半分くらいに感染が減る」といった効果を信じている人はリセットした方がいい。

ここまで見てきたように、目からの感染を示唆する報告があり、フェイスシールドの効果を示唆する報告があって、それぞれ確定的なことは言えないにせよ、数字的にはマスクをするならゴーグルやフェイスシールドをした方が感染しにくいと言ってもいいでしょう。

これは当たり前の結論です。当初から言われていたように、安いマスクや手作りマスクの効果は感染しないことではなく、感染させないことであり、感染している人がマスクをすることで他者に感染させる可能性を調べて初めて効果があるだろうことが期待できるのです。

つまり、この実験は最初から両者の間に差が出ないことが想像できるものでしかありませんでした。

よって、同じ調査でも、N95マスクや防塵マスクであれば効果が出る可能性はあります(ただし、これも有意な結果が出なかった実験もなされています。インフルエンザでの実験ですが)。

そうとわかっていたはずの人でも、マスクをしているうちに感染しないのだとの思い込みに支配されているケースが相当ありそうです。これがマスクの怖さです。

自身がやっていることを人は過剰に肯定したくなるものであり、自分と違う人を過剰に否定したくなる。そのために、より効果のある対策を見なくなってしまいます。世界はそこにハマってしまっているように私には見えます。

※2020年11月30日付「alun.dk」 注意書きがついていたにもかかわらず、この調査結果をもとに「マスクに効果はない」とするデンマークの記事。記事を書く人の誰もが元の報告書を確認するわけではないので、こうなってしまうのは避けられない。筆者はマスクよりもビタミンDの方が予防に効果があると言っていて、私にとっての納豆と同じ意味なのか、本気で言っているのかは不明。

 

 

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