松沢呉一のビバノン・ライフ

クオータ制がウガンダの独裁制をサポートした可能性—ウガンダとチュニジアのクオータ制[1]-(松沢呉一)

ボビ・ワインはウガンダの反同性愛法制定に寄与したクズ—ポストコロナのプロテスト[107]」「学校での着用禁止は賛成、公道での着用禁止は反対—ムスリムの女性が頭部を隠すことの議論を整理する[3]」から続いてますが、プロテストとは関係ないので独立させました。

なお、ここでの「クオータ制」は 特記がない限りは「ジェンダー・クオータ制」を指します。クオータ制についてはこれまでにも繰り返し書いてきているので、「クオータ制」のカテゴリーをご利用ください。

 

 

 

クオータ制は独裁者の味方

 

vivanon_sentence

最近、「ポストコロナのプロテスト」で取り上げたウガンダとチュニジアはどちらもクオータ制を考える上で格好サンプルであることに気づきました。このふたつの国は別方式のクオータ制を導入しているので、比較ができて好都合です。

では、まずウガンダの場合。

西側諸国が援助金をウガンダに積極的に出してきたことの背景のひとつはムセベニ政権は民主的であるとの幻想です。民主主義を標榜して西側諸国の評価を得て、多くの援助金や開発費が流入し、軍事強化をして周辺諸国の紛争を抑える側に回り、その点での評価も得てきました。

前から書いているように、西側諸国の援助金は民主主義の可能性みたいなところに投下されます。金を出す分、民主主義を育てろと。

アミン大統領とオボテ大統領の時代との比較で、ムセベニは民主的であるように見えただけでなく、ムセベニはそう見せる戦略をとってました。その典型がクオータ制です。

ざっと調べた範囲で、ムセベニ政権がクオータ制を導入したことに対して、民主的に見せかけるためのギミックであると指摘しているものはなく、ウガンダはクオータ制を導入したアフリカの先駆的な国のひとつであると評価されています。

現実に議会の3分の1強を女性議員が占めていて、青年枠、障害者枠もあります。ここを見ると、いい国じゃないですか。

しかし、私にはそうは見えない。結果としてそうなっただけに過ぎないのだとしても、クオータ制が独裁を加速したのではなかろうか。

ムセベニ率いる国民抵抗運動の議員数とクオータ制の関係を示す数字まで過去に遡って調べた方がいいのですが、クオータ制導入前の数字まで調べるには何日もかかりそうなので、以下は比較的最近の数字をもとにした、あくまで私の印象であることをお断りします。

※ウガンダの選挙制度についてはIDEA(International Institute for Democracy and Electoral Assistance)のサイトがわかりやすい。ただし、数字は前回の選挙結果のままです(その事情は以下)。このサイトは各国の選挙制度についてまとめたデータベースがあって、どこの国でもおおまかなことはわかります。

 

 

クオータ制は権力を集中させる賢い方法

 

vivanon_sentenceクオータ制を導入することによって、女性議員を増やしたムセベニ大統領は、フェミニズム的、民主主義的には正しい大統領でした。「下駄を履かせるような方法であっても女性議員が増えれば男女平等が達成でき、社会はよくなる」と信じるタイプのフェミニズムや民主主義にとっては、です。私と同様に考えるタイプのフェミニストや民主主義者であればまやかしに見えるかもしれないとして。

では、どちらが適切な見方なのかを確認していきましょう。

ウガンダが採用したクオータ制は、各選挙区につき一人の女性枠を作ることでした。その枠内でトップの候補者が男性候補者の数字と無関係に当選します。わかりやすい方法ですが、ウガンダでは、二重構造になっていて、男女ともに立候補できる通常枠と女性だけが立候補できる女性枠からなります。

トランプもそうだったように、また、ボビ・ワインもおそらくそうしたように、選挙に異議申し立てができる期間があって、異議申し立ての審議が終わらないと確定しないためか、今回の数字が見つからなかったのですが、前回(2016)の結果で言うと、議席数427のうち、112議席は女性枠です。これに一般枠で当選した41名を加えて153議席が女性。34パーセントです。候補者数での女性率は28パーセントなので、この差がクオータ制の成果と一応は言えます。

しかし、28パーセントの立候補者しかいないんだから、当選するのもその程度の数字であればよく、もっと女性議員を増やしたいなら立候補者を増やすしかないと私は考えます。日本でも現に立候補者が少ないことが女性議員率に反映されているだけなのだから、政治家になりたい人を増やす環境作りをやるべきであり、少ない立候補者が多数の議員になるのは不当です。

しかし、ここではその話はいったん置くとして、クオータ制を肯定する前提で話を進めます。

※2020年2月1日付「DW」 ボビ・ワインの法務チームは、今回の選挙が無効であるとの訴えを出したとのこと。投票自体が不正だったとの証拠もある模様。

 

 

next_vivanon

(残り 1549文字/全文: 3597文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ