半世紀にわたる闘いで中絶の非犯罪化を達成したアルゼンチン—ポストコロナのプロテスト[111]-(松沢呉一)
「クリスティーナ・キルチネル副大統領の汚職とロックダウンの関係—ポストコロナのプロテスト[110]」の続きです。
中絶非犯罪化運動が始まってから半世紀
これまでアルゼンチンでは、レイプによる場合、母体が危険に晒される場合以外の中絶は認められていませんでした。金のある人は国外に出て手術することができますが、大半の人は非合法で中絶していたわけです。
これに対して1970年代から、つまりはリブの時代から、フェミニストたちが法改正を求めてきて、毎年法案を提出しながらも却下され、マウリシオ・マクリ前大統領の時代になって、やっと本格的な議題になります。マウリシオ・マクリは「個人としては反対だが、議論は拒まず」という姿勢で、法案は下院を通り、上院で否決。
これに反対してきたのはもちろんキリスト教。ポーランド同様、アルゼンチンではカトリックが圧倒的に強く、準国教といっていい扱いです。
しかし、この問題についてはカトリックの間でも意見は二分され、政党内でも意見が割れてました。
正義党の多数派は賛成でしたが、当時平の議員だったクリスティーナ・キルチネルは中絶反対。しかし、最後の最後で賛成票を投じています。彼女には娘がいて、どうやら娘が説得したようです。やるな、フロレンシア。
娘のフロレンシア・キルチネルは脚本家という肩書きになってますが、検索しても作品がまったく出てこないので、実態はないのではないか。
アルゼンチンでは父も母も大統領ってことで、セレブっぽい扱いのようなのですが、母親が設立したマネーロンダリングのための不動産会社に名を連ね、仕事をした形跡がないのに報酬を受け取っており、彼女の収入はこれでしょう(ざっと計算すると月に日本円で10万円くらいですから、これだけではないでしょうが)。この件では、母娘、さらに息子であり、やはり政治家であるマキシモ・キルチネル(Máximo Kirchner)が被告になってます。
アルベルト・フェルナンデス現大統領はこの時は一議員ですが、賛成票を投じており、大統領就任以降もこの問題に積極的で、再度法案の審議に入ります。なお、アルゼンチンでは1994年まで、カトリック信者しか大統領になれなかったそうです。今はこの条件は外されてますが、ここまで登場した大統領は全員カトリックだと推定できます。
※フロレンシア・キルチネルのInstagramより
緑vs.水色の闘い
新型コロナのパンデミックで国会審議は延期され、2020年11月から審議再開。12月11日に131対117で下院を通りました。
その瞬間を待っていた人たちの様子。
レインボーフラッグもはためいています。やはりハンガーがシンボルなんですね。
水色の人たちは反対派です。十字架を持った反対運動の人がキモいです。韓国にもこういう人たちがいっぱいいます。プロテスタント系ですが。日本のプロテスタントにもいましょう。
でも、アルゼンチンで反対が強いのは、都市部ではなく、人口の少ないエリアなんだそうです。どっちかと言えば貧困層、どっちかと言えば低学歴かもしれない。ちょっと複雑な気持ちにならんではないけれど、説得できる相手ではないので、韓国のように、こういう人たちの存在は無視し、非信者層に向けての活動をする方が賢い。
すでにお祭り騒ぎですが、前回のことがありますから、まだ気は抜けない。
両派がブエノスアイレスに集結して、デモンストレーションを展開。
反対派は国旗を掲げている人たちも多い。水色は国旗の色です。中絶反対派、カトリック、ナショナリストの色。
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