ジェンダーニュートラルな名前をつける親が増えている理由—男の名前・女の名前[5]-(松沢呉一)
「「全裸はいいけど、マスクをしろ」と言われるチェコは名前のタブーも謎—男の名前・女の名前[4]」の続きです。
フランスの場合
ここまで見てきたように、名前というテーマは国による背景や事情があって、そこを確認しておかずに、表面的な現象だけを見ると判断を間違えます。
ドイツでは2008年までは男女の名前を入れ替えることが禁止されていて、以降は自由になったために現在は以前に比して増加している可能性も高く、米国や英国、オーストラリアと同じようには語れないかもしれず、どこまで何なのかを見極めることが難しい。
ドイツで比較的最近まで性別が厳密だったのは、もともとプロテスタントが強いことと関わっていましょう。今はカトリックと拮抗していますが、キリスト教は準国教みたいなものです。名前は聖書から採るため、聖人の性別を変更するのはまかりならんという感覚があったのではないか。
それでも、その決まりがなくなったのは、ちょっとずつ宗教離れが進んでいることの表れでしょう。
フランスではそのような記事や調査は見つからなかったのですが、見つからない理由になりそうな記事がありました。
もともとフランスでは、混合名(Les prénoms mixtes)として(名前を合体させた複合名とは別)、どちらでも使える名前の人気が高く、また、あえて女の子に男の名前を、男の子に女の名前をつけることもよくあって、一世紀ほどの間に、男の名前だったのが女の名前になり、女の名前だったのが男の名前になった例もあるそうです。
もともとその傾向が強いので、さらにその傾向が強まっているのだとしても、そこに着目することがあまりないのかもしれない。
※2020年7月21日付「PARENTS」 子どもの命名用に混合名をガイドしたフランスの記事
フランス人の証言
念のために日本にいるフランス人であるヴァンサン・ギルベール(Vincent Guilbert)さんに確認しました。私も最近の赤ん坊の名前がどうなっているのかなんて知らないように、40代である彼もフランスの名付けトレンドは知らない様子です。そのためなのか、あるいはもともとジェンダーニュートラルな名前が多いためなのか、彼はそういう名前が増えている実感はないみたい。
男女共用の名前があるのは日本と同じですが、ちょっと違う点がありました。
「どっちも使える名前にも二種類あって、例えばエマニュエルという名前やガブリエルという名前はどちらでも使えるんですけど、発音はまったく同じでも、スペルが違うので、書いたものなら男か女かわかります。男だとEmanuelです。lで終わる。女だとそれにleがついて、Emanuelleです」
エマニエル夫人もいれば、エマニエル君というのもいましたね。エマニエル君てどんなんだっけと思って検索したら、フランス人じゃなくて、アメリカ人でした。スペルはフランスと同じ。
「もう一種類は語尾が変わらない名前です。クロード(Claude)も男女ともに使いますけど、スペルは一緒です」
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