女っぽい名前より男っぽい名前の方が裁判官として出世するという研究—男の名前・女の名前[6]-(松沢呉一)
「ジェンダーニュートラルな名前をつける親が増えている理由—男の名前・女の名前[5]」の続きです。
女らしい名前は分野によっては出世できないとの説
英語圏では女らしい名前は仕事上不利だと判断され、そのため、女の子にはジェンダーニュートラルな名前をつけ、男の子につける名前はそのような変化がないと書かれた記事が複数ありました。一方的に女の子の名前に変化が起きているのだとすると、ジェンダーニュートラルな名前が増えている現象は、「女の子に女らしい名前をつけると将来不利になる」という説を信じている人たちが一定数いるのが原因という説に信憑性が出てきます。
親がそう思い込んでいるだけでいいわけですが、こんなことが本当にあるのかどうかも気になります。
調べてみて驚いたのですが、「女の裁判官は、女らしい名前より男らしい名前の方が成功する」という内容の論文があります。女という性が忌避されて、「女は出世できない」のではなく、女らしい名前が忌避されるということなので誤解なきよう(名前の女らしさは、現実の女らしさから作られた部分もあるので、両者を完全に分けることはできないかもしれないですが、ここではひとまず分けておきます)。
研究者だから正しい、論文だから正しいなんてことは全然なくて、とくにこのタイプの研究は眉に唾をつけながら読んだ方がいいものです。実際、こういう研究は難しいことが想像できます。
「女らしい女の名前」「男らしい女の名前」という判断をどうやってやるのかから難しい。「女の多くがつけている名前だから」だけでは決定しない。個人が判断するだけでは体験等に大きく左右されますから、まずこれを決定するために、アンケート調査でも実施するしかない。実際にやっている研究者もいるでしょう。
眉が唾でベトベトになりながらもさらに調べてみました。
※Bentley Coffey, John E. Walker and Patrick A. McLaughlin「Do Masculine Names Help Female Lawyers Become Judges? Evidence from South Carolina」 オックスフォード大学が発行する法学誌に掲載されたもの。タイトルにもエビデンスとありますし、アブストラクトでも確たる証拠があると明言しています。
名前で収入が変化する例
移民を対象にしたスウェーデンの調査では、「もともとの名前を使い続けたグループ」と「スウェーデン風に改名したグループ」を比較して、後者の方が収入的に明らかに有利だったといった結果が出ています。
アラブ系、アフリカ系、アジア系とすぐにわかる名前は書類の段階ではねられることが想像できます。業種によりけりですが、比較的収入の多い職種では、日本でもそういうことが起きそうです。
また、「そのままの名前を使う」「改名する」という選択において、その人物の性格や考え方が反映されるため、そこにおいて不利になっている可能性もありそうです。
同様の外国人の名前の効果として、別の研究者は、教師による子どもの評価にも影響するという報告をしています。見た目ではなく、名前ってところがこの報告の肝です。
人種的偏見の問題であり、純粋な名前の影響を見るには適さない研究とも言えるのですが、これらの研究は潜在的な意識の反映によってもなされていると見なせる点が共通しています。その判断をしている人たちは自覚できにくい。「差別だ」といくら騒いでも解消されにくいのです。
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