松沢呉一のビバノン・ライフ

SNSで強化される自己愛—男の名前・女の名前[12]-(松沢呉一)

人間は自分が大好き—男の名前・女の名前[11]」の続きです。

 

 

 

「自分かわいさ」もほどほどに

 

vivanon_sentence他者や事物に対する好意の説明として「潜在的エゴティズム」は用いられ、ここまでは納得しやすい。意識下のみならず、意識上でも「自分かわいさ」は頻繁に発揮されますから。その上、意識できないところでもこの作用が働くってことです。

人の判断は、しばしば自己肯定というバイアスがかかります。よく言うポジショントークは、自分自身の利害を計算して、自分や自分が属する集団の不利益にならないような発言を意味するわけですが、この計算は無意識になされることの方が多いかと思います。だから、他者がやっていると批判するのに、自分自身では同じことをやっていたりします。ダブスタです。自分にとって自分は特別なので、別基準になります。

自分を肯定できること、自尊心を持つことは人がスムーズに生きていく上で必要。今の自分をそのまま受け入れて肯定する限りにおいてはむしろ健全。「私」と他者と区別し、主観と客観も区別した上で、「私」を主語にして語ることも必要。

しかし、それが亢進して「自分は自分にとって特別」に留まらず、「他者にとっても自分は特別」「世界にとって自分は特別」に至ると自己愛性パーソナリティ障害の疑いあり四半世紀ほど前から、自己愛人間は増えていると言われています。

私がよく批判している例。セックスワーカーが「自分の意思でやっている」と言うと、「自分ではそう思っているだけで、社会から強いられているのだ」と言い出す糞論も「自分は特別」が亢進しています。「自分は自分の意思だが、あんたは自分の意思ではない」という決めつけができる人たちは異常。パーソナリティ障害かどうかは知らんけど。

潜在的エゴティズムは意識下で(も)決定がなされることを示唆する論ですが、これは個別の人の意思に自由自在に適用できるものではなく、無意識に決定されたものであっても、本人の意思は意思として尊重するのが社会のルールです。おかしな利用をする人が出ないように、釘を刺しておきました。

※カウンセリングセンター南より「パーソナリティ障害チェックテスト」 こういうテストは当たると思っています。私自身、どのテストをやっても結論は同じで、自覚もあります。やるまでもないのですが、ためしにこの診断テストをやったら、いつものように「強迫性パーソナリティ障害の傾向が強い」という結果でした。他は低いのですが、強迫性だけ数字が抜きん出てます。コントロールできているのでそんなに困らないですが、強迫観念から逃れるための対策がもたらす影響に少し困ることもあります。パーソナリティ障害自体は治せるものではないですけど(たぶん)、コントロールするために、自分の障害は知っておいた方がいいかと思います。

 

 

SNSは自己愛集積装置

 

vivanon_sentence内輪びいきのようなことも、無意識にやっている人たちが多いのではなかろうか。たとえば敵対する勢力の発言には厳しく、味方の発言には甘い人たちが多いわけですが、これも意識してそうしているのではなく、現にそう見えてしまう人たちが多いのだろうと思います。

「直接面識のある味方」に限らず、自分と同じ考え方をする人の書くものは無批判に受け入れ、敵対する考え方をする人の書くものには厳しくなる。

といった現象はさまざま見られるわけですけど、これをもっともわかりやすく見せてくれるのがSNSです。自己愛集積装置であり、自己愛増幅装置ですから。

 

 

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