ハイチのようなエリアがコロナで増えていくかもしれない危惧—ポストコロナのプロテスト[126]-(松沢呉一)
「ハイチ国内だけでなく、国外でも諦めが広がる—ポストコロナのプロテスト[125]」の続きです。
退くプロテスト・退かないプロテスト
ロシアではナワルニー・チームがいったん撤退したのは見事でした。続けることでだんだんプロテスター側が疲弊していきますし、逮捕者が増えるとその救援に力が注がれることになります。人間、成果が出ないと虚しくなるか、自棄になります。そこから暴力化して、いよいよ弾圧が厳しくなる。
そこで体勢を立て直し、次のその時まで力を温存しておく作戦です。退くのも大事。
ナイジェリアでは、レキ虐殺のあと暴動になって、おそらく犯罪組織が便乗したと思われる刑務所襲撃があったり、プロテスターの暴走なのかテレビ局や政治家の自宅の焼き討ちがあって、店舗や倉庫の略奪もあって、平和的なプロテストを続けてきた人たちは動きを止めました
これ以上の混乱は避けたいとの考えでしょう。ロシアはナワルニー・チームの判断であり、ナイジェリアはとくに誰がそう決定したというわけではなく、自然とそうなったように見えます。
その点、スーダンやハイチの人たちは全然退かない。何人も死んでいるのに退かない。何人も死んでいるから退かない。
とくにスーダンでは独裁政権は倒れたのだから、ロシアよりもはるかに民主化への道は近く、あとは選挙が行なわれて民主政権ができるのを待った方がよく、そのためにやっておくことは多数あります。野党はやっているでしょうけど、誰を候補にするのか、不正選挙が行なわれないようにどう監視するのか、法や制度をどう整えるかを検討する。なんだったら政権に協力だってしていいでしょう。
※2019年付け「国境なき医師団(Doctors without Borders)」カナダ支部のサイトのサイトより「Anger and despair in Haiti: people’s health in danger as crisis worsens」 2019年の最初の3か月で、首都ポルトーフランスの救急センターが受け入れた銃による負傷者は237人。しかし、医師も医薬品も設備もすべてが足りず。しかも病院に行く金のない人々もいるため、国民の健康状態は悪化し、混乱による潜在的死者(混乱による直接的死者にカウントされない死者)が増えているとの内容。プロテストによる無駄な死傷者を増やせば、助かる人も助からなくなる。この負傷者は治安部隊によるものだけではなくて、プロテスターによるものも少なくないことを記事は示唆しています。
スーダンとハイチの共通点
と思わないではいられないのですが、スーダンやハイチの人たちが一旦撤退という方法をとらずに、ひたすらプロテストを続けるのは大きくみっつの要因がありそうです。
ひとつは長年の抑圧から解かれて祭りが続いているってことです。その熱狂の中にずっといるので、冷静な判断ができない。チリのプロテスターたちもそうでしょう。ここには国民性みたいなものも関わっているかもしれない。
ふたつめはクーデターによって政権が倒れても安心ができないという経験則です。スーダンではアラブ主義諸国が介入し、ハイチでは米国が介入してくるため、プロテストし続けることで脅しをかけておく。
みっつめはとくにハイチですが、プロテスター同士の勢力争いも激しいため、プロテストをやめると、敵対勢力に主導権をもっていかれて、支配するエリアを奪われるとの思いもあるでしょう。なわばり争いです。
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