松沢呉一のビバノン・ライフ

国王や政府を嘲笑するだけで懲役刑になるスペイン—ポストコロナのプロテスト[128]-(松沢呉一)

ラッパーのパブロ・ハーゼル(Pablo Hasél)収監で火がついたカタルーニャ—ポストコロナのプロテスト[127]」の続きです。

 

 

パブロ・ハーゼルに対する判決を検討する

 

vivanon_sentence今回のパブロ・ハーゼル収監のもとになった歌詞とTwitterの投稿に対する判決はこちらで読めます。スペイン語のPDFです。スペイン語は使用人口が多いにもかかわらず、どういうわけか、Googleの自動翻訳の精度が低く、とくに法に関する文章は正確に理解するのは難しい。よって間違いがあるかもしれないことをお断りします。

直接の罪状は、以下の3点です。

 

1)テロリズムの高揚

2)国王への侮辱と中傷 

3)国家機関に対する侮辱と中傷

 

スペインにはこの3点を規制する法律があって、これが歌詞およびTwitterでの投稿に適用されました。

まず1点目。直接的に「国会に爆弾を仕掛けろ」「国王を暗殺せよ」といったようにテロを煽動することだけでなく、テロリズムを肯定的に扱うこと自体にも適用されます。

パブロ・ハーゼルはテロ組織を肯定的にとらえたとも思われる内容をTwitterに複数回投稿しているのは事実(このあと詳しく見ていきます)ですが、この法律は怖くて、2013年、学生がフランコ独裁時代のルイス・カレーロ・ブランコ(Luis Carrero Blanco)首相が暗殺されたことに因む冗談をTwitterに書いただけで、2015年に逮捕され、2017年、懲役1年の判決を受けます。

2015年に法改正があって内容が強化され、インターネットの発言をサルベージする作戦が実施された際にひっかかったものです。

彼女は奨学金を打ち切られ、2018年になってやっと最高裁がその判決を覆して無罪が確定。

ルイス・カレーロ・ブランコは1973年にバスク独立運動のETA(Euskadi Ta Askatasuna)に爆殺されていて、その際、車が数十メートル飛んで、修道院の建物を超えて中庭に落ちており(以下の写真と図解参照)、「ルイス・カレーロ・ブランコは月旅行に出掛けた」といった冗談が当時から繰り返されていて、彼女はそのヴァージョンを書いただけです。

確認してみたら、彼女が逮捕される以前から、ルイス・カレーロ・ブランコを「スペイン初の宇宙飛行士」と称しているような例が多数ありました。私が簡単に見つけられたくらいにありふれた表現にもかかわらず彼女が逮捕されたのはなにかしらの恣意的な判断が働いたであろうことが想像できます。

最高裁まで闘ったからよかったようなもので、罪を認めていれば懲役刑です。この場合は繰り返されてきた冗談だったことを最高裁が認めて無罪になっているのですが、独裁者をテロで倒したとしても、その行為を肯定的に表現してはいけないってことであり、ヒトラー暗殺計画を肯定的に書くだけでも抵触する可能性が今なおあります。私は懲役確定。

無罪になったところで、多くの人はこんな冗談さえ書けなくなります。萎縮効果抜群。

 

 

汚職疑惑等で国外に逃げた国王を侮辱する表現さえ許されない

 

vivanon_sentence2点目と3点目は、事実に基づく批判はいいとして、侮辱表現や根拠なき誹謗中傷は違法という内容。

具体的にはパブロ・ハーゼルは、国王を「サイコパス」「ギャングのボス」「寄生虫」「マフィアのゴミ」などと表現していることが挙げられています。ここでの批判は前国王フアン・カルロス1世が対象だと判断できます。前国王は汚職等で批判されて国外に逃げています。それを罵倒することさえも許されない。

国王を批判してはいけないということではないのですが、これらの表現は憎悪を向けるために不必要に使用されたと裁判所は認定しています。こんな表現をしなくても批判はできると。不要不急の表現はNG。この論で言えば怒りを伴う表現はすべてアウトになりかねない。

 

 

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