投票行動の性差と自殺の性差—サイレント・エピデミック[2]-(松沢呉一)
「自殺に関する説得力のない論が流布していることを憂慮する—サイレント・エピデミック[1]」の続きです。
投票行動の性差
自殺については簡単に踏み込めず、昨年の日本での自殺者数の推移をどう解釈するのかについては難しすぎます。すでに論文が日本国内の研究者によって出ていますが、正直、あまり役に立たない。データが足りないので当然ではあるのですけど。
前回書いたような拙速な自殺解釈が流布していることに対しては腹立たしさはあるのですが、批判するにしても簡単ではない。あと3年くらいして各国のデータと分析が出揃ったらチェックすればいいやと思っていたのですが、自殺とは無関係な記事を読んでいる時に「ああ、ここにヒントがあるかも」と思える指摘が出てました。
すんごい遠回りになりますが、そこから説明していきます。これはこれで非常に面白い話です。
「小池百合子が好きなじいちゃんとそれをたしなめるじいちゃん—男の名前・女の名前[14]」に書いたように、投票行動は、人間の行動原理や他者との関係性を見るのに役立つテーマです。あれ以来、カタルーニャの音楽を聴きながら、投票行動についてのデータや研究報告を時々読んでいます。
このジャンルでも「投票の性差」というテーマがあって、「誰(どの党)に投票したか」の性差や投票率の男女差について調べられています。
夫婦で考えた時に、投票は一緒に行くことも多いでしょう。となれば投票率も同じになっていいはずなのに、そうはなっていないのです。
女性の投票率の方が高い国
米大統領選では、1980年には男女ともに投票率64パーセントだったのが、以降はつねに女性の投票率の方が高く、その差は開いて4パーセント前後の差で推移しています(上に出したグラフを参照のこと)。
その時の政治的テーマによって男女の関心に違いが生ずることがあるのは容易に想像できますが、つねに女性投票率が高い事実は、短期の政治的テーマとは別の事情があることを意味します。
投票日に仕事を休めるか否かという点で男女差が生じている可能性もあって、夫は仕事で、妻は投票ということもありますが、休めない仕事はとくに販売業や飲食業ですから、共働きの場合、どちらかと言えば女性の方が出勤になることが多いはず。
日本でも、選挙によってほとんど同じか女性が高い傾向があります。
なぜかについてはいまなお確定的なことはわかっておらず、このことから「女性の方が政治意識が高い」と単純化はできません。これも調査が多数出ていて、どこの国でも男性の方が政治的関心は女性よりはるかに高い。日本でもそうです。
世界各国同じだったらまだ説明が可能になるでしょうが、ヨーロッパの国々を見ると、フランスでは10パーセント以上男性の投票率が高く、一方、スウェーデンでは10パーセント以上女性の投票率が高いなど、国によって大きく違っていて(それぞれ選挙によっても違いましょうが)、なぜこんなばらつきが起きるのか。超難問です。
※2019年6月18日付「The Economist」 英国の調査。左は年齢による変化、右は学校による変化。年齢が上がるとともに、また、高等教育に上がるとともに政治的感心の性差が開く。ここを改善しないと、政治家にならんとする意思の男女差は消えず、立候補する人材の男女差は消えず、議員数の男女差も消えない。この格差を改善せずにクオータ制を導入するのがいかに無謀かわかります。この数字は「政治に関心がありますか」という質問に対するもので、この質問だと私は「いいえ」と答えるかもしれないと思いました。「政治」だけだと国会での審議や政局みたいなものをイメージしてしまって、そこにはあんまり関心がないですから。選挙や社会問題には関心があるんですけどね。
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