カタルーニャとバレンシアの音楽群[5]—ポストコロナのプロテスト[135]-(松沢呉一)
「カタルーニャとバレンシアの音楽群[4]—ポストコロナのプロテスト[134]」の続きです。
カリケニョ・ロック(Kalikenyo Rock)
他のヨーロッパ諸国同様、スペインでも1970年代末にはパンクが盛んになるのですが、その頃にはフランコ政権が倒れていたために明確な敵が不在となっていました。社会運動全体が脱力したような状態だったのではなかろうか。そのため、音楽上のムーブメントはすぐにニューウェーブに移行したようです。
たしかにエスプレンドー・ジオメトリコ(Esplendor Geométrico)のようなノイズ、インダストリアル系のスペイン音楽をいくつか私も認識していましたが、パンクはまったく記憶にない。私の場合、90年代半ばくらいからカラオケで歌えるものしか聴かなくなったせいでもありますが。
しかし、その土地柄か、バスクとカタルーニャでは以降もパンクが盛んで、今もカタルーニャのフネダ(Juneda)って場所では毎年「カリケニョ・ロック(Kalikenyo Rock)」というパンクフェスが行なわれています。カリケニョってなんだろうと思って調べたのですが、わかりませんでした。地名ではなさそう。
テントに泊まりがけで、複数のテスージで3日間続く一大フェスで、スケジュールを観たら、午後3時台に始まって深夜4時台がラスト・ステージ。騒音の問題がないのだと思うのですが、さすが不良系。
その映像を観ていたら、G.B.H.のTシャツを着たバンドがいて、「今も人気あるんだな」と思ったのですが、G.B.H.はこのフェスに何度か出ていました。
KalikenyoのロゴはAがアナキズム・マーク。政治的な姿勢というよりパンクのお約束でしょう。
G.B.H.は40年以上これをやっているのですから、すごいなあ。メンバーは60代ですよ。
他にもトイ・ドールズ(The Toy Dolls)、アディクツ(The Adicts)などのイギリスのバンドが出ていました。この辺でも60歳前後。演っている曲は80年代と同じじゃないかな。
他のスペインのバンドも、50代、60代と思われる人たちがいっぱいいて、「大丈夫かな」と心配になりました。首を振ったら頸椎ヘルニアになるし、ジャンプしたら椎間板ヘルニアになります。
カリケニョの常連で、左翼パンクを代表するのがボイコット(Boikot)。マドリッドのバンドですが、参考映像ってことで。
ここまで観てきたように、スペインのバンドはホーンが入るので、メンバー数が多い傾向があるのですが、パンクバンドでもメンバーの数が多い。あれだけいるんだから、メンバーは入れ替わってましょうが、1987年からやっているんだってよ。
この曲はセックスのこと、もしかすると売春のことを歌っていて、とくに社会の常識と闘うような内容ではありません。
コップ(KOP)
ざっと観た中では、KOPというハードコアのバンドが音もスタイルも抜きん出た存在です。毎年夜の部で出ているようです。
レインボー・アンティファ・フラッグです。彼らは反政府、反警察、反ファシズムとともにLBGTの人権についても主張しています。ボビ・ワインはこれも見習え。
1998年結成のバンドですが、それ以降の展開もパンクです。ボーカルのフアンラ(Juanra)は、2001年、マドリッドのネオナチ・グループの情報をバスクの武装グループETAに渡していた容疑で警察から逮捕状が出て国外逃亡。翌年オランダで逮捕され、スペインに引き渡されて懲役5年を食らってます。ETAはテロ組織としてマークされているにせよ、情報を流しただけで5年の懲役は厳しすぎ、襲撃依頼でもしたのでありましょうか。
出獄後、音楽活動を再開。
上の映像では「Leitmotiv」という曲名になってますが、「SOLS EL POBLE SALVA EL POBLE」の間違いだと思います。コメント欄でも指摘されていないのですが、曲を覚えてしまいました。
以下は2009年のライブから同じ曲。
この曲は「人だけが人を救える」という内容。確認できなかったですが、ステージに掲げられた写真は政治犯ではなかろうか。
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