松沢呉一のビバノン・ライフ

投票・銭湯・マスク・相談・自殺—サイレント・エピデミック[3]-(松沢呉一)

投票行動の性差と自殺の性差—サイレント・エピデミック[2]」の続きです。

 

 

 

コミュニケーションの男女差

 

vivanon_sentence政治的関心の調査では男性に比して女性ははるかに関心が低いことが明らかにされているのに、投票率は女性が男性を上回っている国が少なくない。自殺の話とはなんも関係がなく、この謎を探っているうちにインドに辿り着いたことは前回書いた通り。

日本では自分が誰に投票するのか、投票したのかを言わない方がいいという思い込みがありますから、投票日前に具体的なことを話すことはおそらく比較的少なくて、もっと数字が低くなるのではないかと思いますが、インドでは男女合わせて40パーセント以上が身近な人の意見を参考にしたという事実にちょっと驚きました。ただ話しただけでなく、「参考にした」です。

「男らしさ」「女らしさ」を名前が取り込んでいく仕組み—男の名前・女の名前[15]」に私は「投票行動は、その人の政治的信念や思想みたいなものを反映していて、「誰でもいい」とはなりにくい選択のはず」と書きました。投票はいたって個人的な行動という思いが私にはあります。家族がどうしようと、友人がどうしようと、「私は私」を貫いてよく、黙っていれば誰にもそのことはわからない。私とて、迷うことは当然あるけれども、どの候補者がどういう主張をしているかをさらに検討するだけ。

「誰でもいい」ということではないがゆえの行動にせよ、そうも身近な人の意見を参考にするのかとインドのデータを見て驚いたわけです。

ここにおいて、男性では人の意見を参考にした人は3分の1以下なのに対して、女性は半分近くが人の意見を参考にしたことに注目しました。10パーセント以上の開きがあります。その差が投票率の逆転までをもたらす一因になっていると考えることができそうです。それだけではないとしても根底にそれがありそうです。

日本の数字が見つからなかったのですが、同じような傾向が出るのではなかろうか。

世界各国でこの点についての調査をやると、投票率との関連が何か出てくるかもしれない。可能性としては、「教育程度の性差がなくなり、女性が投票に行く行動についての制限がなくなって以降、投票率が一定以上に維持されている限りは女性の方が投票に行く」ってことです。

「女性の方が男性よりもやるべきことをちゃんとやる」ってことだったりもするわけですが、他者の影響を受ける特性が強いため、全体の投票率が落ちてくると、周りに合わせて投票しない女性が増えるかもしれない。

ここまで書いてきて申しわけないですが、投票率の性差自体はここではどうでもいい。ここでの関心事は、コミュニケーションの方法や様態に性差がはっきりあって、その差が投票行動の差として数値にも出る可能性です。

調べるのが大変すぎるので、これ以上はわからないままにするとして、コミュニケーションと、その影響において性差がある国が少なからず存在していることを確認します。

※「Increasing Women Voter Turnout In Indian Elections」より、上のグラフはインドの国政選挙における男女の投票率の推移。真ん中はその男女差。下は州議会選挙で逆転を示すグラフ

 

 

銭湯で如実に出る男女差

 

vivanon_sentence日本でもしばしばコミュニケーション能力は女性の方が高いとされます。これは銭湯でも実感できることは私がよく書いている通り。インドから急に横丁に移動です。

男湯は人がいてもシーンとしていて、洗面器の音だけが響いているのに、女湯からは楽しそうな会話や笑い声が絶えず聞こえてくることがしばしばあります。脱衣場と違って、洗い場では音が響くので、内容まで聴き取ることは難しいのが残念です。

男湯が騒がしいのは、小学生の野球チームやサッカーのチームが練習や試合のあとで集団で来ているような時くらいです。あとは子どもの日など、子どもが無料になる日。

 

 

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