松沢呉一のビバノン・ライフ

自殺未遂は女の方が多く、死ぬのは男の方が多い—サイレント・エピデミック[5]-(松沢呉一)

男の方が圧倒的に自殺が多い現実を無視する人たちには女の自殺率の増加を説明できない—サイレント・エピデミック[4]」の続きです。

 

 

 

男性の方が自殺死亡率が高い理由を検討する

 

vivanon_sentence極一部の例外はあれども、どこの国でも男性の方が自殺率があきらかに高いことについて、どんな説が出ているのか検索してみたら、論文が多数出ていました。論文を全部読むのは大変だし、金がかかるので、もっぱらアブストラクトとさまざまな記事の流し読みですけど、ざっとどんな説が出ているのかはわかりました。

もっとも簡単に出てくる発想は、男性の方が社会的重圧が大きいというものです。社会的地位が高いってことは責任も大きい。責任のある立場にいると、ストレスが大きい。「女も大変だけれど、男はもっと大変」という話。

個別に見た時にこれが自殺に関わっていることは確実にあるでしょうが、これだけで自殺率の性差を説明することは無理です。この説で言えば、男女の社会的格差がなくなって、女性の社会的地位が高まった国では、女性にかかる圧力が増し、その分自殺が増えるはずです。

そうなっているはずのヨーロッパでは、現実には世界でもっとも男女差が大きいエリアです。対して、すぐ横の地中海東岸(ギリシャ、イスラエル、トルコ、エジプト、シリア、レバノンなど)はもっとも自殺の男女差が少ないエリアです。アジア、アフリカ、ラテンアメリカはその中間に位置します。

いかにさまざまな要因がからむとは言え、その分布を見ても、この説で男女差を説明することはできないことがわかりましょう。

また、男の方がリスクを怖れないという説もあります。社会で成功するためには冒険をする必要があって、その一部は成功し、その他は失敗し、その一部は自殺するってわけです。しかし、これもエリア差を見ると、あまり意味があるとは思えない。地中海東岸では男性がリスクを怖れる、あるいは女性がリスクを怖れないってことはないでしょう。却下。

※「statista」文字が見えないと思いますが、2017年の自殺率上位20カ国の自殺率(青)・男性自殺率(黒)・女性自殺率(グレー)のグラフ。リンク先にはもっと下まで出ていますが、自殺数を集計していない国も少なくないので、リンク先に出ているのが公的な数値が出ている国のすべてかもしれない。

 

 

自殺未遂の数は女性の方が多い?

 

vivanon_sentence

米国では男性の自殺死亡率が女性よりずっと高いのに、自殺未遂は女性の方が多いというデータがあります。ここに糸口がありそうです。

自殺未遂までは警察も把握していないだろうに、どうやって数字を出したのだろうと疑問に思ったのですが、救急病院に搬送された人の数字が元です。米国ではこの情報をCDCが集積しています。

よって、家族、友人、知人が助けるに留まって病院に行かなかったケース、薬を飲んでも目が覚めたら死んでいなかったようなケースは含まれてません。

こういう数値までを拾うためにはアンケートでもとるしかないですが、自己申告はノイズが入りやすいので、病院のデータがもっとも信用できそうです。

 

 

next_vivanon

(残り 1599文字/全文: 2909文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ