松沢呉一のビバノン・ライフ

結婚と自殺の関係・離婚と自殺の関係・死別と自殺の関係—サイレント・エピデミック[11]-(松沢呉一)

自殺者のイメージと現実のズレを修正する—サイレント・エピデミック[10]」の続きです。

 

 

未婚と結婚と離婚と死別と自殺の関係

 

vivanon_sentence前回、離婚と自殺の関係について軽く触れました。ここから結婚と自殺の関係について進む予定だったのですが、難しすぎて消化できていません。

何がどう難しいのかだけざっと説明しておきます。

以下は米CDCのデータ(元データを処理するのは私では無理なので、こちらから拝借)。

 

 

 

上から、赤い線は離婚した人(以下「離婚者」)、青がかった緑の線は結婚したことのない独身者、紫の線は死別した人(以下「死別者」)、黄緑の線は結婚している人(以下「婚姻者」)です。死別者以外は増加傾向にありますが、なによりまずは自殺率が大きく違うことに戸惑います。

このグラフを見ると、「結婚していると、夫婦や家族が自殺を留める安全装置として機能している」ってことになりそうで、事実、そのようなことを書いている人たちが多数いるのですが、「ちょっと待てよ」という点があります。

独身者の線は2009年から上昇し、とくに2014年から急上昇して、死別者との差を広げています。これは米国で大きな問題になっている若年層の自殺上昇を反映しているのだろうと思います。

中高生であればほぼ100パーセントが独身者です。日本でも寮が整備されていない偏差値の高い高校に通うために一人暮らしをしたり、親が離婚して両親ともに家を出ていって、息子あるいは娘は学校の関係で一人暮らしをすることになるのも極稀にいますが、ほとんどの場合、家族と住んでいて、一部は寮に住んでいます。

この世代の独身の意味と、社会に出てからの独身の意味は全然違って、社会に出てからでも、20代であれば親と住んでいたり(米国では少ないと思いますが)、会社の寮に住んでいたり、仲間と住んでいることも少なくない。対して、50代以上の独身者であれば圧倒的に一人暮らしの率が高い。

大きく前提になる条件が違う層を同じグループにまとめるのは無理があって、とくにデフォルトで独身であり、家族と同居している中高生を独身に入れると「自殺における婚姻の意味、家族の意味」を見極めることができなくなります。

 

 

家族が生み出す安心と対立

 

vivanon_sentence当然研究者はそこに気づくわけで、論文には「年齢調整」「結婚調整」といった言葉がよく出てきます。条件を同じにして数字を出し直す。その結果、婚姻者と独身者の自殺率は変わらないという結果も出ています(ここは議論あり)。

統計学のアプローチを私は理解ができず、読んでも検証ができないのですが、仮にそうだとすると、今度は「なぜ夫婦や家族の存在が自殺を抑制することができないのか」という疑問が出てきます。

合っているかどうかわからないですが、説明しようとすれば説明は可能です。

家族という共同体は結束の側面と対立の側面が同居しています。

共同体がトラブルを抑制する側面があるのと同時に、共同体間の対立によって紛争が生じ、時には民族浄化が行なわれることを「ポストコロナのプロテスト」でたびたび見てきましたが、結婚は別の共同体に属していた人同士が生活を共にします。民族や村落が同じでも、家族という共同体は夫婦で別ですから、対立する部分が出てきます。

 

 

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