松沢呉一のビバノン・ライフ

「女らしさ」が自殺を減らし、「男らしさ」が自殺を増やしていた(かも)—サイレント・エピデミック[8]-(松沢呉一)

自殺で死亡しやすい人の意外な特性—サイレント・エピデミック[7]」の続きです。

 

 

自立指向と依存指向

 

vivanon_sentence前回見たノルウェーの調査での「個人主義」は制度ではなく、個人の意識をデータにして検討したものだと思われます。制度と個人の意識は密接に関係しているはずですから、両者は無関係とは考えにくいですが、時に国民個人の意識とずれた制度を導入していることがあり得ます。

しかし、個人の意識の集積であれば、「個人主義の強い国」は「個人主義の強い国民」としてよく、個に落とし込んだ時には「個人主義の強い人ほど自殺する」ということになります。

個人主義の反対は全体主義、権威主義、集団主義ですけど、ここでは個人のこととはっきりわかるように、自立指向依存指向としておきます。

自立指向と依存指向は、前者の方が人として強い印象があり、依存指向は誰かに支えてもらわないと生きていけない弱い印象があります。個人を見た時に、自立指向の人の方が現に精神的に強いでしょうけど、依存指向の人は、弱いがゆえに依存することで庇護を得ます。結果、自殺するのは強い方です。

正確に言うと、依存指向の強い人たちは自身の窮状をアピールする自殺未遂で留まるのが多く、自立指向の強い人たちは強い自殺の意思まで至った上で自殺して死に至りやすい。

これが男女の自殺格差につながっていると確定しているわけではないですが、これ以外では説明がつかないことが多すぎます。

※2014年2月8日付「Radio Sweden」掲載「Are Swedes more suicidal than most?」 前回スウェーデンの自殺について書きましたが、「スウェーデン=自殺大国」のイメージを払拭すべく、「実際のところどうなんか」をラジオ・スウェーデンがまとめています。自殺率が高かったのは過去のことだと言っていて、数字を見ると、実際そうなのです。ここもすごく大事で、現状を踏まえた適切な対策をとれば、国民の性質はそのままにしながら自殺防止は可能ってことをスウェーデンは示しています。適切な対策のためには適切な分析が必要。だから、男性の自殺率の方がはるかに高いことを無視する人たちはノイズにしかならないと私は言っております。

 

 

強いと思われている存在が弱味をさらしても助けてもらえず、ただ蹴落とされる

 

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これがほとんどの国で女性の自殺より男性の自殺が圧倒的に多い主たる理由になっていると仮定して話を進めるとして、ここには弱い存在としての知恵があります。

ここから学べることは間違いなくあります。と書くと、「男性も女性のような依存的性格になればいい」なんて言い出すのがいそうなので釘を差しておきますが、個人主義者たらんとする私はそんな発想は受け入れられるわけがない。ただでさえ、周りに合わせることを最優先する人たちが多いことにイラつくのに、これ以上それが強まったら自殺しかねないです。

また、男性が女性とまったく同じ戦略をとっても成功しません。なぜなら強いと思われているからだし、事実、強い部分があるからです(このことは鬱病とDVのデータと世間一般の人々の思い込みとのズレを見るとなおのことはっきりし、それについても説明すべく書き進めていたのですが、終わらなくなるのでカットしました)。

 

 

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