松沢呉一のビバノン・ライフ

自殺率の高低を決定する意外な特性—サイレント・エピデミック[7]-(松沢呉一)

自殺未遂はコミュニケーション(の側面が否定できない)—サイレント・エピデミック[6]」の続きです。

 

 

個人主義が強いほど自殺が増加するとの説

 

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この件を調べていて、「うわっ」と思った論文がありました。有料論文なので、本文は読んでないですが、ノルウェーの研究者たちによる論文で、アブストラクトによると、33カ国の過去の自殺データを検討した結果、「自殺と個人主義は強い正の相関関係があった」と書かれてました。

「うわっ」と思ったのは、「ワシも最後は自殺か」と怖くなったわけではなくて(常日頃から薄々そうなることを予測してますから、いまさら驚かない)、我が仮説と合致していたからです。「うわっ、やった!!」ってことです。

自殺に影響する要因はムチャクチャ多いので、自殺率で国に順位をつけた時に、上から順番に個人主義の強い国が並ぶことにはならないのですが、同じ条件であれば個人主義の強い国の方が自殺は増える。ということだろうと思います。

たとえばスウェーデン。私もよく覚えてますが、スウェーデンは昔から自殺率が高い国と言われていました。現在は数値が落ちていますが、かつてはヨーロッパでもっとも自殺率が高く、この事実は「福祉が充実しても国民は幸福にはなれないのだ」といった論につなげられ、「幸福すぎると自殺する」といった論もありました。何をもって「幸福」とするのかによるのですが、これらの論は間接的に影響を与えている可能性があって、まったくの与太と片づけられない点を含みます。

また、「寒いエリアの方が鬱を発症させやすく、自殺につながりやすい」という説もありました。白夜との関係で説明する論もあって、ちょっとロマンチック。

今なおこれら気候説は完全には否定されてはいないながら、ほとんど関係がないというところに落ち着いているようです。同じ程度に寒い国がその分自殺率が高いってことはない模様。

「離婚しやすい国は自殺が多い説」も昔からあります。自殺番付の常連であるロシアがその筆頭であり、ソ連時代からにそう言われていたはずです。ロシアは今も離婚率世界一。自殺世界一のベラルーシも離婚は多い。スウェーデンもヨーロッパの中では離婚率が上位です。離婚と自殺の関係については改めてやりますが、「離婚で女性の負担が増えるのだ。ああ、なんて女性は虐げられているのか」といった恒例のチープな発想では解釈できないので注意のこと。

これらも影響している可能性がありつつ、個人主義というもうひとつの要因が見えてきたわけです。この説が正しいかどうかの検討は必要として、このことは男女の自殺率の差を説明するものにもなりそうです。

※Floyd Webster Rudmin,Marcello Ferrada‐Noli, John‐Arne Skolbekken「Questions of culture, age and gender in the epidemiology of suicide

 

 

個人主義の各国ポイント

 

vivanon_sentence自殺の多い国を並べた時に、単純に個人主義の強い国が上位を占めるわけではないと書きましたが、それでも念のために調べてみましたさ。

個人主義を数値化したものを探したら、「Hofstede Insights」が出てきました。

 

 

 

 

ここは、他文化圏との接点のある企業のコンサルティングや研修、リサーチをやっている会社のようで、ビジネス視点での国別の特性を数値化したものを公開しています。ざっと見た範囲では、そこそこ信用できそうです。

 

 

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