松沢呉一のビバノン・ライフ

離婚をすると自殺率が急上昇する仕組み—サイレント・エピデミック[12]-(松沢呉一)

結婚と自殺の関係・離婚と自殺の関係・死別と自殺の関係—サイレント・エピデミック[11]」の続きです。

 

 

離婚と死別で自殺に及ぼす作用がどうして大きく違うのか

 

vivanon_sentence「なぜ離婚をすると自殺率が大きく上昇するのか」「なぜ死別の場合は離婚と同程度に上昇しないのか」は難問です。

前回書いたように、私は私なりの解釈をしたわけですが、それだけで説明できるとは思えず、その理由を探しました。

出てました。

「MensDivorce」掲載「Suicide Rates High in Divorced Men

 

離婚して自殺率を上昇させているのは男性なのです。もともと男性の自殺率は女性より高いわけですが、離婚をすると、通常の高い自殺率を超えて自殺をする。

 

カリフォルニア大学リバーサイド校、以前に完了した全国縦断死亡率調査の中で婚姻状況と自殺を調査する調査を実施し、離婚した男性と女性は既婚の男性と女性よりも自殺のリスクが高いことを発見しました。離婚した人と別居した人は、既婚者と比較して2倍以上の自殺の可能性がありました。より具体的には、離婚した男性の自殺のリスクは既婚男性の2倍以上であったのに対し、女性では、既婚女性と離婚した女性に統計的差異はありませんでした。

 

自動翻訳をちょっとだけ修正しました。

これには異論もあって、「女性の方が自殺率が上昇する」「男女に差はない」という主張をしている少数の研究者もいるのですが、文中のリンク先の調査を筆頭として、多数派のデータは、男性の方が女性よりも離婚による自殺の上昇率が圧倒的に高いことを示しています。

ひとつひとつ確認しないとわからないですが、データにブレが生じるのは、おもにサンプルの偏りによるものだと推測できます。

すでに確認したように、同じ米国内でもコミュニティによって自殺率は大きく変化しますから、特定集団あるいは特定エリアを対象にした小規模な調査だと偏りが生じて全体を見るには適さない。

ヨーロッパにおいても西ヨーロッパと東ヨーロッパでは自殺のありようが大きく違い、北欧と、ギリシャ、アルバニアなど地中海東部を比較しても大きく違います。結婚、離婚の作用も違ってくるはずです。

よって北米なりヨーロッパなりの調査研究が日本にそのまま通用するとは限らないので注意のこと。

※2014年8月26日付「American Journal of Men’s Health」掲載Jonathan Scourfield, Rhiannon EvansWhy Might Men Be More at Risk of Suicide After a Relationship Breakdown? Sociological Insights」 上の記事ひとつでは心もとないという方はこの論文をご利用ください。異論を含めて、今までの調査、研究を概括したもの。

 

 

「結婚は男性にとってメリットが多いから」説は却下

 

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具体的に何がどうして離婚した場合に男性に自殺が偏るのか。

これに対して「結婚は男性の方がメリットが大きい」という説があります。妻に家事を負担させるのがその筆頭であり、そのメリットを失うので自殺をするのだと。

未婚よりも結婚した人の方が自殺が少ない説を根拠にしたものでしょう。前回説明したように、ここは議論があるのですが、この理由であれば、妻と死別した時も同じことが起きるはずです。現実にはそうなってません。一部の事例を説明することができるとしても、米国では死別より離婚の方が2倍自殺率が高く、国によっては3倍以上高いことの説明はできない。

 

 

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