松沢呉一のビバノン・ライフ

スーパーで手作りマスクをいただきました—マスク・ファシズム[23]-(松沢呉一)

マスクの意味を考える素晴らしい展覧会—マスク・ファシズム[22]」の続きです。

 

 

矛盾回避のためのフェイスシールド

 

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秋山理央が教えてくれたのですが、古い機種のiPhoneの顔認証は、マスクをしていると判断ができず、iPhoneでの決済の場合、タクシーやレジでいちいちマスクを外すか、パスコードを入れるのが面倒なため、フェイスシールドにしている人がいるそうです。もしiPhoneがいちいち「マスクをしてください」と注意してきたら叩き壊したくなりましょう。

便利なはずの機能がコロナ禍では使えない。そこでフェイスシールドを使う。

ほとんどの場合、単独の客が店で唯一言葉を交わすのはレジであり、そこでマスクを外すんだったら、なんのためにマスクをしているのかって話です。

ずーっとコンドームをつけているのに、いざ挿入の時にコンドームを外すんだったら、なんのためにコンドームをしているのか。ただの飾りかよ。

ビニールカーテンやアクリル板がレジには設置されていますし、言葉を交わすと言っても一言二言です。しかもスーパーやコンビニは人の出入りが多く、たいていレジは入口に近いため、換気もよくて、感染するリスクはゼロと言っていいでしょう。

つまりは単独の客がマスクをしなければならない必然性はないのですから、マスクなしでいい。にもかかわらず、マスクをしていることとの矛盾がその場面では生じますので、その矛盾を回避するためにフェイスシールドにするのは自分に誠実です。

こういった矛盾がコロナ禍では溢れました。

前回見たように、「マスクをひとたび外すともう使わず、新しいマスクにする」あるいは「一回一回消毒する」という「正しいマスクの使用法」を実践していない人が他人には「鼻を出すな。マスクは正しく使え」と注意する。

「若い人は死ななくても、ウイルスを拡散して老人や病人が死ぬ。弱者のことを考えろ」という人が唇を読めなくなって困っている聴覚障害者やマスクが辛い呼吸器系の病気の人を無視して一律のマスク着用を求める。

感染リスクの低い屋外でもマスクをしながら、目からの感染はまるで考慮しない。

飲み屋やライブハウスで感染者が出るとここぞとばかり叩くのに、多数の感染者を出し続けている介護施設の対策強化は求めない。

集会禁止に反対するアンチ・ロックダウン・プロテスターをひとくくりにして陰謀論者だと嘲りながら、集会禁止に反して集まるBLM(ブラック・ライヴズ・マター)は支持する。

etc.

世界は矛盾でできていることを明らかにした1年でした。

※2021年5月21日付け「日本経済新聞」 新しい機種では改善されて、マスクをしていても認証されるとのこと。

 

 

このままでは終れない

 

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日本はいい国なので、マスクをしていないくらいで捕まることはないですが、それでもさまざまなトラブルが起きてしまったことが残念です。そこに意味があるのかないのかを考えることなく、異端者がいることを許せない人たちがいるのです。

世間体を一切なくすことは難しく、私だって鼻糞を顔につけたまま外出はしませんし、股間のチャックが開いていることに気づいたら閉めます。したがって感染対策になるかどうかなんてどうでもよく、ただただ世間体のためにマスクをする人たちを非難はしない。

マスクをしたい人はどんな状況でもすればいいですけど、所詮世間体であることを自覚せずに、マスクの義務化を求めたり、必要がないと判断してマスクしない人を叩いたりする人たちは信用できない。

他人に口出しをする人、口出しをする機械がうざいので、早くマスクの時代が終わればいいのにと思い続けて早1年、陽気とともにやっとゆるくなってきたかもしれないのでせいせいしています。

でも、マスク時代にひとつだけ心残りがあります。

運良く私が日頃接する人には「検査厨」「マスク厨」「マスク警察」「自粛警察」などのうぜえ人々はおらず、私同様、「ちょっとそこまで買物に」程度ではマスクをしないのが何人かいて、その一人が言っていた話。

「店に入ったら、“マスクをしてください”と言われて、“持っていない”と言ったら、マスクをくれた」

いいなあ。私はそんな親切は経験したことがない。

 

 

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