ギニアに銭湯を作るのが夢—新・銭湯百景[13]-(松沢呉一)
「外国人にとって銭湯は今も重要なコミュニケーションの場—新・銭湯百景[12]」の続きです。
母国に銭湯を作りたい
銭湯で会ったネパール人青年の話を聞いて、「そっか、外国人にとっては銭湯で話すことも大いに意義があるんだな」とわかって、これからはできるだけ話しかけようと思ったのですが、東アジアはもちろん、東南アジアの人でもぱっと見だけではわからないことがあります。
複数で来ていれば言葉でわかるし、顔の特徴の共通点をピックアップして、外国人だとわかることもあるのですが、単独だと難しい。しかも、全裸ですし。チンコの皮を見ると、ユダヤ人はわかることがあるとして。
さっき銭湯に行ったら黒い大きな人が気持ち良さそうに電気風呂に入ってました。写真を撮りたくなるくらいのいい光景です。
私も電気風呂に入りたかったのですが、なかなか出ないので、別の浴槽(つながってはいるのですけど)に入りました。
彼は電気風呂から出て私の隣に来たので、こう聞きました。
「電気風呂は好き?」
「大好き!」
ものすごく強調してそう言いました。その言い方に笑ってしまいました。
「どこから来たの?」
これは定番の聞き方で、日本生まれ、日本育ちかもしれず、外国人とは決めつけない聞き方です。「埼玉から」「千住から」「隣町から」「三軒隣から」「うちから」「かあちゃんの股の間から」のどれも可。
「アフリカ」とだけ彼は言います。大ざっぱな答えですが、その事情はあとでわかります。
年齢は40歳くらいか。銭湯も温泉も大好きで、休みになると、遠くの温泉まで出掛けています。
「山梨も茨城も群馬も行ったよ」
彼には夢があります。国に帰ったら銭湯をやりたいと思ってます。
「そういえばエチオピアは温泉があるんだよね」
「そうそう。あの国は火山があるからね。私の国は温泉はないけど、掘れば出る。でも、掘るとお金がかかるので、まず銭湯をやりたい」
「共同浴場はある?」
「ない。だからあればみんな来るよ。銭湯だけだったら、そんなにお金はかからない。浴槽があって、ボイラーがあればいい。あとはサウナ。それだけでも絶対に人は来るよ」
どうやら本気で考えているようです。
ギニアは西アフリカ、赤道ギニアは中部アフリカ
彼は先に浴槽から出て、私が入浴セットを置いていたカランの横で体を洗ってます。彼はタオルを使わない方式で、備え付けのボディソープを手につけて洗う。日本人でも1割から2割はこの方式です。私もこの方式を採用した時期があるのですが、ナイロンタオルでゴシゴシ洗わないと洗った実感がないのでとりやめました。
私がカランに戻ったら、今度は彼の方から話しかけてきました。
「仕事は何をしているの?」
私は自分の仕事を説明しました。
彼は道路工事をやっているそうです。
「道路工事や建設の仕事は時間通りにきれいに終わるのがいいんだよ」
この時はまだ午後5時台です。その代わり朝が早かったりしますが、午後5時台には風呂に入れるのは確かにいい。彼が私の仕事を聞いたのも早すぎるからでしょう。
私は改めて国を聞きました。
「ギニア」
ああ、それでアフリカと言ったのかと合点がいきました。南ア、エチオピア、ナイジェリア、ケニア、ガーナくらいまでならアフリカだと理解されますが、ギニアだとアフリカだと理解しない人もいそうです。
かく言う私も曖昧な知識しかありません。
「ギニアって中部アフリカ?」
「いや、西アフリカ」
しまった、赤道ギニアと混同しました。ギニアとその北のギニア・ビサウ、ちょっと東の赤道ギニアは世界地理あるある混同です。
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