松沢呉一のビバノン・ライフ

「私っていくつだと思います?」と「私ってどこの国から来たと思います?」[下]—サイレント・エピデミック[第一部付録編 3]-(松沢呉一)

「私っていくつだと思います?」と「私ってどこの国から来たと思います?」[中]—サイレント・エピデミック[第一部付録編 2]」の続きです。

 

 

 

インドとネパールの不思議

 

vivanon_sentenceジョークの他に、日本で言えば「知恵袋」的な各国のQ&Aのサイトで、「“私は何歳に見える?”という質問にはどう答えるのが適切なのか」といった書き込みが必ずと言っていいほど出ています。

いくつか回答まで読んでみたら、「20代だったら3歳若く、30代だったら5歳若く、40代だったら8歳若く、50代だったら10歳若く」といった実用的な知恵も書かれていますし、「君は歳を気にするにはまだ若すぎる」なんて気の利いた答えも書かれています。

とくに性別を特定していないものもありますが、おおむね女性が「私って何歳に見えます?」という質問をすることになってます。

話者数の多い言語に関していえばこの話題はなんらかの形で取り上げられていて、「日本だけ」「東アジアだけ」の現象ではありません。頻度の違いや受け取られ方の違いはあるでしょうけど、そこまでは検索しただけでは調べられない。

ただし、例外がありました。インドとネパールです。翻訳の問題、検索の問題かもしれないですが、何通りかの文章を翻訳して検索しても出てきませんでした。「猫の年齢を知る方法」「地球の年齢」「ミイラの年齢」といったものが出てくるばかり。

話者数が1千万人を切るような言語だと、コンテンツ自体が少ないので、ひっかかりにくいのですが 、話者数5億人のヒンディー語でそれはなかろうと。スウェーデンでは英語を使うことも多いため、スウェーデン語は話者数930万人よりもネットでは少なくなりましょうけど、それでも出てくるので、話者数が1,600万人のネパール語が使用者数の問題で出てこないとは考えにくい(貧困層も多いので、ネット利用者の数は少なくなるとしても)。

ヒンドゥ文化圏特有の何かがあるのでしょうか。牛を食うのと、自分の歳を他人に聞くのはタブーみたいな。

※百度知道より「女孩子问你猜她有多大时 该怎么回答」中国語でも出てました。この質問をするのは「女の子」(女孩子)になっています。

 

 

コミュニケーションの方法?

 

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うちで二個目の蒸しパン(蒸しパン二個セットを購入)を食いながら、「あの返しはコミュニケーションの方法なのだな」との結論に至りました。前回リンクしたブログでは、なぜ女性はこの質問をするのかの理由がいくつか挙げられていて、その中にもコミュニケーションの方法という解釈が出ています。

また、やはり前回リンクした「発言小町」のコメントでも「円滑な人間関係(の手段)」「会話を和ませるつもりで言っている」といった言葉があります。

インド料理屋でネパール人が働いていたり、中華料理屋でベトナム人が働いているなんてこともありますけど、料理と国がリンクしている場合、「どこの国から来たの?」なんて質問はしない。

居酒屋の店員だと名札を見つつ聞くこともありますけど、だいたい安い居酒屋は少人数で回しているので、「ベトナム」とだけ答えてすぐにいなくなります。

そのため、そんな返しは初めてだったわけですが、女子にはこういう返しをすることで会話を楽しむ作法みたいなものが少なからぬ国であるのではないか。

もちろん、「私はいくつに見える?」と聞く人は自分が若く見えるのだと思いたい人たちでしょうし、それがお世辞だと思っても嬉しいのでしょうが、質問に質問で返して無駄をやる作法が身に付いているからこそ聞ける。

 

 

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