松沢呉一のビバノン・ライフ

カタルーニャとバレンシアの音楽群[20](最終回)—ポストコロナのプロテスト[150]-(松沢呉一)

カタルーニャとバレンシアの音楽群[19]—ポストコロナのプロテスト[149]の続きです。

 

 

槌鎌

 

vivanon_sentence前回見たSTOPケルト十字の意図は正確にはわからないですが、ハーケンクロイツにバッテンしているだけでは足りないってことでしょう。

ハーケンクロイツとケルト十字の位置づけについては「バイキングvs.ネオナチ—ポストコロナのプロテスト[12]」で説明した通り。現実にネオナチがハーケンクロイツを現在も掲げている例は北欧を中心にそう珍しくはないですが、それらの国でも多数派とは言えない。国によっていろいろですが、ダス・ライヒのロゴやケルト十字、それらのアレンジの方が多いと思います。

むしろ、今現在、もっともハーケンクロイツを使用しているのは、ハーケンクロイツにバッテンをしている人たちではなかろうか。ナチスのシンボルですから、それはそれでいいとして、それですべてを終わらせてしまっているのはまずくね? 見ておくべきことが見えなくなります。

反ナチスの極右もいるため、ハーケンクロイツだけでは拾い上げられないことをSTOPケルト十字のマークは示していそうです。

そこはわかるとして、結局のところ、なぜカタルーニャのパンク、ヒップホップ系の人たちがああも槌鎌(「鎌と槌」「鎌槌」とも言いますが、私はもっぱら「槌鎌」)を好むのかの理由は不明のままです。

槌鎌は共産主義のシンボルですから、それだけならともかくとして、彼らが使っているのはしばしばソビエトのそれです(↓参照)。赤地に黄色の槌鎌。CCCPのTシャツを着ていることからも、ただの共産主義支持ではなく、ソビエト支持なのです。なんでだよ。

鎌槌はソビエト支配時代の圧政の記憶から、東ヨーロッパではひどく嫌悪され、いくつかの国では使用を禁止されているマークであり、当初はパンクスがハーケンクロイツをつけるのと同じような反社会性のアイコンとして使っているのかと思っていました。若気の至り。事実そういう使い方をしているだけの人たちもいるのでしょうが、スペインではどうもそれ以上のものとして槌鎌を使っているのがいるようです。バルトニクがそうです。

アンティファは親ソビエトのドイツ共産党(KPD)が始まりであり、よく見るアンティファ旗もその時のものですから(「ホルスト・ヴェッセルの英雄化とドイツ共産党の拙攻—ナチスはなぜ売春婦を抹殺しようとしたのか[2]」に出したKPD本部の写真を参照のこと)、アナキスト系が主流の現在のアンティファに逆らって、当時の復古かとも思うのですが、反ナチスなら英米だって同じであり、ナチスを敗北に追い込んだのは英米ソの連合軍ですから、なぜソビエトだけが突出するのか不明です。

もう存在しないからか? 存在しないことが肯定の理由なら、ナチスを否定しなくていいのでは? ネオナチは今もいるとしても、ソビエトを継承するロシアはなお存在するわけですし。

疑いのない全体主義国家であり、ナチス以上の虐殺をやった国ですから、自由という言葉を好み、時に民主主義も主張しているミュージシャンが親ソビエトは解せない。自由を叫ぶバンドが中国共産党支持はあり得ないのと同じ。アナキズム系アンティファにとっては、ナチスドイツもソビエトも中国も一緒。個人主義派アンティファの私にとっても同じ位置づけ。

Wikipediaより槌鎌

 

 

パブロ・ハーゼル(Pablo Hasél)

 

vivanon_sentenceそのひとつの回答かもしれないフレーズが、パブロ・ハーゼル投獄直前の曲「NUESTRAS LIBERTADES」の歌詞に出てきます。この回答に私は少しも同意しないですが、そこを見ておきます。

カタルーニャとバレンシアの音楽群」になってからはパブロ・ハーゼルの単独曲を取り上げてませんでしたので、これでこのシリーズを終えておきます。

 

 

このタイトルは「私たちの自由」の意味。バックに書かれているのは「検閲がどうしたこうした、パブロハーゼルに自由を」みたいな言葉です(「どうしたこうした」の部分は自動翻訳では訳されませんでした)。

時期が時期ですから、投獄を前提に、「刑務所に入っても敗北はしない。そこは権利と自由のための新たな塹壕になる」という宣言の曲です。

 

 

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