一世紀後まで影響を及ぼすオアシスの功績—男の名前・女の名前[付録編1]-(松沢呉一)
「台湾「鮭の乱」と名前自由化の動き—男の名前・女の名前[19](最終回)」で本編はいったん終わって、あとは脈絡を考えずに、書き溜めたものをどんどん出していきます。
ヒット曲と赤ん坊の命名
「潜在的エゴティズム」という考え方を知っただけでもこのシリーズは十分意義があったのですが、名前については調べれば調べるほど、好奇心が刺激されて止まらない。
2019年12月28日付「DAILY JSTOR」掲載「The Science of Baby-Name Trends」 はいい切口の記事です。
名前は政治からインスパイアされるものもあれば、ポップカルチャーからインスパイアされるものもあります。大統領や首相の名前だったり、ミュージシャンの名前だったり、曲のタイトルだったり、テレビドラマの登場人物だったり。
しかし、名前がタイトルになる曲が大ヒットしても現実の命名に影響を及ぼさないケースもあるのが面白いところだし、名前がどのようにつけられるのかを示唆する重要なポイントです。
長渕剛の「順子」とか、ブルーハーツの「リンダリンダ」とか影響したんですかね。影響していないだろうと思いつつ、念のため、明治安田生命の「名前ランキング」で確認してみましたが、どちらもありませんでした。
リンダはさすがにつけにくいとして、順子はつけやすすぎるのです。純子や淳子、潤子といった漢字ヴァージョンが多数あり、どれかがクラスに一人はいるくらいのありふれた名前でしょう。侚子くらいにマイナーな漢字であれば影響したかもしれないですが、「順子」はすでに飽和。
であるがゆえに「どこにでもいる存在」として曲の対象としては好ましかったとも言えますが、この曲がヒットした1979年の段階でも、すでに「いい名前だなあ」と感心されるようなものではありませんでした。1950年にはベスト10のすべてが「子」、1960年には9個になり、1970年には7個になり、1979年には5個になっていて、「子」の凋落は明らかになっていた時代です。
曲が悪いのではなく、歌詞が悪いのでもなく、長渕剛が悪いのでもなく、名前が悪い。この名前自体が悪いのではなく、この名前では影響を与えることはできなかったのです。
米国の男の子の名前のトップはリアム(Liam)
この記事でも、名前が多様になっていることが指摘されていて、その理由のひとつとしてアフリカ系の名前が増えたとしています。なーるほど。差別の強かった時代は避けたでしょうが、今は積極的につけるようになってきた。ここでもミュージシャンの影響があるかもしれない。サッカー選手とかも。
元はアフリカのエリア、言語、宗教に基づく名前だとしても、その意味合いは米国においてはわからないので、それを適当にアレンジしていくことも増えそうです。
そこは納得したのですが、この記事の冒頭で、「えっ? どういうこと?」と気になる記述がありました。
米国のこの年の男の子の名前のトップはリアム(Liam)とあります。オアシス?
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