名前の国際化・姓の名前化・性の逆転化—男の名前・女の名前[付録編3]-(松沢呉一)
「名前は短くなってきている—男の名前・女の名前[付録編2]」の続きです。
遠くから名前を持って来る時の誤解や飛躍や超越
非英語圏では、将来国際的に活躍できるようにと願って、英語的な名前をつける傾向があります。どんな名前でもつけられるようになってからでしょうが、ドイツでもそうなんだそうです。英語風の名前をつける。
「将来は海外で」というのは、日本でも時々命名の動機として聞きます。MIA女王様もこの名前にした理由のひとつとして「海外でも通じやすい」と言ってました。海外で活躍したいわけではないのですが、米国にいる憧れの女王様に会いに行きたいんだそうです。鬼龍院怪乃桜(きりゅういんあやしのざくら)なんて名前だとなかなか覚えてもらえないですから。
森鴎外の子どもは「茉莉」「於菟」だったり、大杉栄と伊藤野枝の子どもは「エマ」「ルイズ」だったり、外国人の名前を模すのは古くからあった命名法です。「真理」「麻理子」といった名前は森茉莉からの派生なんですかね。今ではこれらももう古臭い名前になってきてましょうが。
「活躍できるように」という願いをこめているわけではなくとも、他文化の接点が増えれば増えるほど、親が他国の尊敬する人の名前をつける、よその国の音感のいい名前を借りて来るなんてことが増えます。伊藤野枝の子どものエマはエマ・ゴールドマンが元ネタであるように。
この時に、男名・女名が狂うこともありそうです。日本では音感のかわいさから男の名前を女の子につけたり、わざと女名を使っている男のミュージシャンの名前を真似て男の子につけたり。どうせ日本ではわかりはしないというので、そのことを知った上でつけることもあるでしょう。
その際に、姓を名前にするのはどこの国でもあるようです。ジョン・レノンが好きでも、ジョンでは何に因んだかわからないので、レノンを名前にするようなことです。レノンを女児につけているケースがありますから、姓と名を超越し、性を超越しています。
※2012年9月16日付「The Guardian」このハチは2012年でタイで発見されて、レディ・ガガ(Lady Gaga)にちなんでAleiodes gagaと命名されたことを報じる記事。レディ・ガガはレディとワンパックなので、人の名前には使いにくいようにも思いますが、世界には一例くらい娘につけた親はいるでしょう。
性の逆転現象と短縮化
こういう経緯とは限らないですが、現実に国によって男の名前、女の名前が逆転しているケースがあります。国境を隔てて、ジェンダーニュートラルな名前が成立していると言えなくもない。接点が少なければそのままでしょうが、接点が増えると、その国のオリジナル通りの性につけるのも出てきて、結局、どっちにも使われることになります。
このことも名前を短縮する理由になっているかもしれない。森鴎外の子どもでも大杉栄と伊藤野枝の子どもでも、全部短い。ドイツ人の男性名であるディートフリートなんてどうやっても日本人には無理。漢字にするのも無理。出吐降人か。出火吐暴威みたいな(デヴィッド・ボウイが来日した時のコスチュームに書かれていた)。
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