松沢呉一のビバノン・ライフ

不要な法は経済的損失を生む—処罰感情が肥大する時代[下]-(松沢呉一)

法を適切に廃止し、改正することを妨げる処罰感情の肥大—処罰感情が肥大する時代[上]」の続きです。2019年7月のボツ記事です。

 

 

 

メディアと読者が一体化した制裁

 

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ナチスの強制収容所に入れられたら、私はどうしただろうとよく考えます。脱走しようにもうまくいった例は極々少ない。それでも試みる人たちがいたのは、黙っていてもどうせ殺されるからです。黙っていると100%殺されるのであれば、0.1%の可能性に賭ける。しかし、現実には100%殺されるのは最終解決が始まって以降、送り込まれたユダヤ人で、それまでに入れられていた人たちやユダヤ人じゃなければ生き延びる可能性を信じることができましたから、大多数の人たちは脱走を試みることなく殺されていきました。

アウシュヴィッツ収容所では、毎日数百、数千という単位で虐殺されていったのだから、収容者全員が同時に蜂起すれば、犠牲者が出るとしても、逃げられたんじゃないかと夢想したりします。

アウシュヴィッツ収容所の蜂起は失敗してますが、トレブリンカ収容所ソビボル収容所、ブッヘンヴァルト収容所では蜂起した人々がいて、多くの犠牲を出しながらも助かった人々がいます。つっても相手は武装してますから、なかなか難しい。

今の日本で法改正を主張したって射殺はされないのですから、「大麻なんて合法化すればいいべ」と思っている多くの人が同時に大麻取締法の撤廃を主張すれば、政治家はそこに票があることを知って動きます。だったらやるべよ。

とくに影響力のあるミュージシャンが次々と大麻ごときで逮捕されて、処罰感情に駆られた人々に叩かれ、関係者が謝罪し、曲の配信がストップし、活動停止になるのはバカバカしいので、捕まるくらいだったら蜂起した方がいいでしょ。

でも、所持している人たち、所持することがある人たちはマークされるのを嫌ってなかなかそんなことはできない。

大麻に関してはここがネックです。2016年、高樹沙耶が大麻合法化を訴えて参院選に出るも落選し、その数ヶ月後に逮捕されたことも教訓になってましょう。

だったら、皆で3年くらい吸うのをやめて、法改正までもっていってはどうか。

私にとって、さほど重要なことではないので、合法化のために尽力しようとまでは思わないけれど、身ぎれいな私は大麻で捕まった人たちを擁護するくらいのことはしておくか。不祥事があったら二度と復帰するなと思っている6割の国民に少しでも対抗したい。

高樹沙耶のTwitter。逮捕されて以降も、合法化を主張し続け、大麻の効用を説いているんですね。素晴らしいな。でも、選挙に出て合法化をアピールすれば確実に目をつけられるんだから、もうちっと慎重にやった方がよかったかと思います。そっち方面の人たちはそういうところが甘いのが玉にキズで、擁護はしますが、近寄りたくはない。

 

 

処罰感情で記事を書いているメディアは叩いて終わる

 

vivanon_sentence先日逮捕されたKen Kenは道で拾ったと言っているようで、拾ったら吸うだろ。10円拾ったら使うだろ。私だって拾ったら吸いますよ。所持すると捕まるので、その場に人を集めて、路上で回します。

当然のことだけど、出どころを言わないのは偉い。とそこも褒めておく。

 

2019年7月20日付「文春オンライン」より

 

こういう記事も、「大麻の合法化が進んでいるのは、その薬効が認められているためであり、彼の不安定な精神的に大麻は有効だったのかもしれない」と補足すると、理解がもっと進むのにな。そういうことを知っている編集者や記者はいくらでもいますが、記事には反映されないのはメディアも処罰感情にとりつかれているからだし、読者が求めるものを記事にすることこうなります。ニーズってやつですよ。

まさにそれがエロ配信の報道にも結実しています。そもそも法律がおかしいのではないかとの疑問は記事のどこにも感じられず、警察からもらった情報を元に逮捕時の映像を流し、警察発表をそのまま記事にする。国民もそれを求めてしまう。

 

 

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