松沢呉一のビバノン・ライフ

ドイツを手本にしたがる人たちへの疑問—ベルント・ジーグラー著『いま、なぜネオナチか?』[1]-(松沢呉一)

このユニットでは、ドイツ民主共和国を「東ドイツ」、ドイツ連邦共和国を「西ドイツ」で統一しますが、引用文では東ドイツを「DDR」、西ドイツを「BRD」としているところがあります。

 

 

 

ドイツは手本になるのか?

 

vivanon_sentence今まで何度か、ドイツを無条件に誉め称えたり、理想として無批判にドイツを手本にすることを諌めるようなことを書いてきています。

もちろん、褒めるところは褒めていいのだし、手本とすべきところは手本としていいのですが、しばしば中身をしっかり検討することなく、返す刀で「それに引き換え、この日本では」といったように、日本を批判するためにドイツを安易に持ち出しているように見えます。ただのダシ。

そういう人たちには、どうしてドイツではハーケンクロイツを禁止しても相変わらずネオナチが強く、ネオナチによる暴行、傷害、放火事件があとを絶たず、ネオナチ政党ともされるAfDのような政党が地方議会のみならず、国政にも議員を出すようなことが起きるのかと問いたい。

私も答えられないですが、答えられないからこそ、その理由を知るべく奮闘し続けています。ハーケンクロイツを禁止にするより、複雑な問題を簡単に考えることを禁止にした方がいいと思います。

AfDは勢力を落としていますが、これは彼ら自身に原因があって、内部対立によって自壊したと言ってよく、AfD支持層が消えたわけではありません。いずれ息を吹き返すか、同様の政党が出てくる素地があります。

ハーケンクロイツやホロコースト否定論を法で禁止しなけれけばドイツはもっとひどいことになっているという考え方もあるでしょうが、法によって記号を禁止したところで効果はない、あるいは逆効果であることを示している可能性もあります。そこは意識しておいた方がよさそうです。

AfDのサイトよりAfDのロゴマーク

 

 

禁止をすると支持が増える歴史

 

vivanon_sentenceナチスが台頭してきたヴァイマル政権の時代、ヒトラーの演説が禁止されたり、SAが禁止されたり、ヒトラーユーゲントが禁止されたりしていますが、いずれも効果はなく、むしろ党員が急増しています(B.R.ルイス著『ヒトラー・ユーゲント—第三帝国の若き戦士たちより)。ナチスが公表した数字がどこまで信用できるのか、という問題はあるにしても、数字が伸びていたことはその後の展開を見ても明らかでしょう。

同じことはネオナチにも起きています。活動を禁止された団体の会員が禁止によって急増するのです。前に取り上げたインゴ・ハッセルバッハがドイツ統一後に逮捕されたのは、東ドイツ発の「国民アルタナティーフ」という団体の活動によるのですが、1990年4月、この団体が手入れを受けた段階では30人程度のメンバーだったのが6月には600人まで激増。20倍です。

その活動の支持者が広く潜在していることが条件になるんだと思うのですが、「正しいことをやっているのに不当に禁止された」となると、それに対する抗議や反発として会員になるのが出てきます。あるいは「禁止されたのは正しいからだ」という論拠にもなっていきます。その結果、インゴ・ハッセルバッハが書いていたように金も集まります。

禁止をするんだったら、ナチスや中国共産党のように、片っ端から拉致して強制収容所に入れる方法をとるしかない。法で禁じればいいという発想はこういうところに行きつきます。

1920年代、ヒトラーの演説が禁止された時のポスター。「詐欺師はドイツのどこでも演説ができるが、ヒトラーは禁止されている」

 

 

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