ナチス本の第一期と第二期—戦後間もなくのナチス本を読む際の注意[付録]-(松沢呉一)
「ゲッベルスは天才」の付録編です。
ナチス本の変遷
私自身、「ドイツは戦後ずーっと戦争責任を追及し、ホロコーストの責任を追及し続け、ナチスについての出版物も出続けている」みたいなまとめ方をやってしまっています。間違いではないですけど、「変わらず出版物が出続けている」となるとちょっと違っていそうなのでここで一度整理します。
ナチス関連の本はまだ100冊も読んでいない、なお初心者の部類でしかない私の大雑把な印象であって、正確なことは時間をかけて数字と内容を検討しないとわからないことをお断りします。途中経過の報告ってことで。
ナチス関連の出版物には大きくふたつの山がありそうです。ひとつは敗戦から1950年代まで、広くとって1960年代まで。
第一期とでも言うべきこの時期に、『夜と霧』を筆頭に、ホロコーストを体験した人々の手記(『アンネの日記』のように殺された人を含む)やルドルフ・ヘース、アルベルト・シュペーア、バルドゥール・フォン・シーラッハら、裁判にかけられたナチス高官らの回想録も1960年代までにはだいたい出揃っています。ヒトラー、ゲッベルスらの評伝もおおむね出ています。
ヘンリエッテ・フォン・シーラッハのように、重要人物の周辺にいた人(ヘンリエッテはハインリヒ・ホフマンの娘であり、バルドゥール・フォン・シーラッハの夫であり、ヒトラーに進言した人物ですから)も1960年代までには著書を出しています。
ニュルンベルク裁判が大きなポイントでしたから、裁判関係の出版物も多く、ニュルンベルク裁判で心理分析を担当していたグスタフ・ギルバートが著書を出したのは1940年代。他にもニュルンベルク裁判に関与した人たちが著書を出しています。
※Amazonのナチズム・ランキング。私が読んでないものばかりで、下位にチラホラ読んだものが出てきます。私は初心者であることが歴然としています。この中にも気になるものがあるので、追々読んでいきます。
戦後世代によるナチスの本
これ以降も出続けてはいても重要度は減って、話題になるものも減り、発行点数や各書籍の部数も減っているはず。
いわば低迷期であり、テレビドラマの「ホロコロースト」(1978)がこの時代の最大の話題か。あとはナチスポルノが穴埋めをし続けていました。
低迷は出版物だけでなく、ドイツの学校教育でもホロコーストについての記述が減ったそうで、この時代に小中高を過ごした世代が、ナチスやホロコーストの知識がないなんて指摘がされるようにもなります。
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