松沢呉一のビバノン・ライフ

「チャイニーズ」が孕んでいた言葉の二重性—「武漢肺炎」という言葉[3]-(松沢呉一)

中国共産党のごまかしと反発する台湾・香港メディア—「武漢肺炎」という言葉[2]」の続きです。このシリーズは一回目の前半と最終回の後半以外はボツ記事を復活させたもので、昨年の夏から秋にかけて書いたものです。また、一部図版は今回改めてつけたものです。

 

 

 

「武漢ウイルス」と「中国ウイルス」の違い

 

vivanon_sentence新型コロナが広く認識された頃に出た、以下のBBCの記事は「武漢肺炎」という言葉の位置づけをよく見せてくれます。

 

2020年2月4日付・中国語版「BBC

 

 

このタイプの「にぎやかし提灯」を好むのはどちらかと言えば台湾の人たちであって、ロンドンの中華街は台湾系の人たちによる店が多いのではないかとも思われますが、そんな区別なく忌避する人たちがいるのでしょう(大陸の中国人が「にぎやかし」を一切使わないわけではないし、まして国外ですから実際のところはわからないですが)。

この記事の中に「中国人的病毒」という言葉が不快であると語る在英中国人が出てきます。しかし、タイトルでも本文でも「武漢肺炎」という言葉が使用されていますし、本文では「武漢病毒」という言葉が使用されています(「武漢病毒」は在英中国人の発言内)。

地名を表す「武漢病毒」はよくて、人につく「中国人的病毒」は不快なのです。

それ以上はこの記事ではわかりませんが、英語の場合は「中国ウイルス」も「中国人ウイルス」もどっちも「Chinese Virus」であり、これを語っている23歳の潘先生は、「中国ウイルス」とした時には自動的に「中国人ウイルス」のニュアンスを帯びることを指摘しているのかもしれない。これが不快なのはわかります。中国人を選んで感染するわけではあるまいし。

これに対して「武漢病毒」は「Wuhan virus」であり、場所を示すだけですから、容認できる。武漢ウイルスと中国ウイルスの違いは指し示す範囲の違いではなく、「地名」と「地名+人」の違いです。そうならないように、「China virus」だったら潘先生は不快にならなかったのではなかろうか。

そう考えるとすっきりします。いずれにせよ、これを語っている潘先生も記者もしっかりここは区別しています。2月の段階ではこの区別ができていたのです。やがてこの区別があいまいにされていき、使用不可の範囲が拡大されていきます。

もうひとつこの記事には重要なことが書かれています。大学の研究生である陳さんは、駅で「コロナウイルス」「スリットの目」「中国の嘘」と歌われるラップを聞いたと言っています。

 

 

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