松沢呉一のビバノン・ライフ

クリトリス至上主義の独善—「私」を主語にできない問題[ボツ編]-(松沢呉一)

ボツ復活シリーズです。

これをボツにした経緯は覚えてます。「私」を主語にすることで自由な主体を獲得する—「私」を主語にできない問題[7]」の続きとして書いたのですが、インターネットを見ていたら、医師の小室朋子さんがほとんど唯一私の問題意識と重なる「私主語問題」を取り上げていたため、そちらを優先しました。

「私」を主語にできなかった人の告白—「私」を主語にできない問題[8]」に書いたように、このテーマは用語が確定していないために検索しにくいのですが、それにしてもほとんど論じられておらず、自分の問題としてそこに気づいて改善した小室さんの経験は貴重でした。私もこれについては四半世紀にわたって考え続けてきましたが、自身の経験を晒して語った小室さんが日本におけるこの問題についての第一人者とすることに異論はないです。話は合わないと思いますが(いちいち言わなくていい)、自分自身で考えて言葉にした人は偉い。

私がこれをまとめて以降はちょっとはこれについて書いている人が増えているみたいですが、いまなお「私」という主語を使うべきところで使えない人たちはそのことを自覚さえしていない可能性もあります。こういう人たちは正確ではない上に発想が危険ですので、要注意です。

 

 

人はいろいろ

 

vivanon_sentence人ってホントにいろいろですね。赤ん坊を見て「かわいい」と言っている人たちはハムスターを見てかわいいと言っているのと同じ感覚なのだとわかった時も「人っていろいろ」と思いました。あれは昨年一番の衝撃でした。

そのことを知って以降のこと。電車の中で夫婦らしき若いカップルがいて、雑誌を見ていた女の方がこう言いました。

「この赤ちゃん、かわいくないよね」

男はそれを覗き込みました。なんと答えるのかワクワクしながら待っていたのですが、何も言わず。今か今かと待っている私に気を使って、なんか言えよ。

たぶん彼は「赤ん坊はハムスターと一緒で全部かわいいもんだ」と反発しながら、それを言うとまた喧嘩になるので黙っていたのだと思います。

それとは別の日、仕事の現場でよく会うカメラマンがこんなことを言ってました。

「オレも赤ん坊はかわいいと思わなくて、“自分の子どもができるとわかるよ”と言われていたんだけど、実際に生まれたのを見たら、“サルみたいだな”としか思わなかった(笑)。でも、言葉が話せるようになると急にかわいくなった」

今は自分の子どもが大好きで、よく一緒に遊んでいるのですが、今も「赤ん坊が無条件にかわいいとは思えない派」です。

言葉が話せて以降の方がかわいいという感覚はよくわかります。赤ん坊は話が通じないので、顔がかわいくても1分で飽きます。見た目が可愛くなくても、話ができれば1時間もちます。子どもは3歳から小学校に入るくらいまでが一番かわいい。無条件にかわいい。

私は、半世紀にわたり、皆さん、かわいくない赤ちゃんに「かわいい」とおべんちゃらを言っているのだと信じて人間不信になっていたわけで、人は自分を基準にしてしまうことから逃れられない。私は私を基準にしてました。

だから、互いに意思表示をしてすり合わせるしかない。その時に「私」という主語を正しく使うべきであり、主語を集団にした途端に間違えます。

※Giovanni Bellini「Madonna and Child」 この子は怖い、私にとっては。お母さんは貧血気味なので、栄養のあるものを食べた方がいいと思う。

 

 

自分と他人は違うことを確認する作業

 

vivanon_sentenceこういう話は昔メルマガでよくやってました。すぐ隣にいる人は自分と同じようなことを考えていて、同じようなことをやっていると思い込んでしまいがちですが、実はまったく違っていることがよくあります。

他者と照らし合わせることのある行為、他者がやっているところを見る機会の多い行為については自分との違いを認識しやすい。たとえば車が来ない時に赤信号を無視して横断歩道を渡るかどうかは観察が可能。その上で他人に影響される人もいるし、されない人もいます。これについては「人は赤信号を常に守る」なんて言わないし、「常に無視する」とは言わない。

しかし、他人がどうしているのかわからない行為については、「誰もが自分と同じことをしている」と信じてしまっていて、世にも珍しいことをやっているかもしれない。

そういった事象をさまざまメルマガで調査していた時期があって、そのテーマのひとつがコンドームの捨て方です。セックスのあとで、「なにやっているの?」と指摘されるまで、私は長らく彼女にとって自分がマイノリティであることに気づいていませんでした。誰もが縛って捨てているとばかり思っていたのです。

 

 

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