松沢呉一のビバノン・ライフ

ヒトラー梅毒説/エーファ(エヴァ)・ブラウン淋病説—ナチスはなぜ売春婦を抹殺しようとしたのか[ボツ編2]-(松沢呉一)

ヒトラー・ユダヤ人説/ヤリチン説/—ナチスはなぜ売春婦を抹殺しようとしたのか[ボツ編1]」の続きです。2019年に書いてあったものですが、図版は今回入れたものが混じってます。

 

 

 

ヒトラー梅毒説

 

vivanon_sentence

ヒトラーは梅毒に感染していたとの説があります。たしかにそう考えると納得できる点が多々あるのは事実です。

感染経路は2説あり、ひとつは父アロイスと母クララからの感染。先天性梅毒です。彼らの子どもが次々と早逝したのは先天的な梅毒だったという説明にもつながります。今より乳幼児の死亡率が高かった時代ですが、貧農でもないのに6人中4人が早くに亡くなっているのは異常に死亡率が高い。

第一次世界大戦前であっても、梅毒の初期であれば薬で進行を抑えることは可能で、マルト・リシャールのように長生きする人もいるのですが、長い期間に少しずつ進行することがあって、表面には出ないまま、血管の病気で亡くなったりします。アロイス・ヒトラーは65歳で死亡、クララ・ヒトラーは47歳で死亡、アドルフ・ヒトラーはタバコも酒もやらない健康主義だったのに40代にして全身を蝕まれた状態で自殺、妹のパウラ・ヒトラーは64歳で亡くなっているのもそのためだと思えなくはない。

先天性ではなく、若い頃にウィーンで街娼から感染し、そのために売春婦を憎んでいたという説もあります。私の思いつきではなく、そういう主張は古くからあり、今もそう主張している人たちがいます。

原因はともあれ、それらの説をとる人たちは、はっきり映像にも残っている晩年の手の震えはパーキンソン病ではなく、梅毒の症状だとしています。たしかに晩年のヒトラーは全身に異常が出ていて、根幹に梅毒があったと考えると納得しやすい。パーキンソン病も全身に出ましょうけど、ヒトラーは心臓など循環器系に異常が出ていたことはたしかにちょっとひっかかります。

藪医者という評価が生前から出ていた、ヒトラーの主治医、テオドール・モレルはもともと性病科の開業医というのもこの説の軽い根拠のひとつであり、彼が処方した薬によってヒトラーはヤク中になっていたわけですが、その薬の中に梅毒治療薬が入っていたと言われています。ただし、全身病気状態のため、多数の薬が投与されていて、「梅毒にも効く薬」だったに過ぎない可能性もあります。

梅毒説では、戦争末期のヒトラーが精神に異常を来していたのもその影響ということになるわけですが、梅毒も末期に至っていたのであれば、顔や首、腕等に疱疹や疱瘡ができていてもおかしくない。地下壕にヒトラーといた人たちで見た人がいれば信憑性が高まるんですけど、そんな話はたぶん出ていないでしょう。

赤軍が最後に遺体からチンポをちょんぎってホルマリン漬けにしていたのがロシアでこれから発見されればいいんですけどね。

※Deborah Hayden『Pox: Genius, Madness, And The Mysteries Of Syphilis』2003年に出たこの本はヒトラー梅毒説とる著者によるもの。著者のデボラ・ヘイデンは薬学の人のようなのですが、これしか著書はなく、詳しくは不明。

 

 

ヒトラー童貞説

 

vivanon_sentenceさして検討する意味のない与太と言っていいのではないかと思いますけど、前回書いたヤリチン説とはまったく逆に、一生童貞であったという説があります。梅毒説の場合は性的に不能になった、あるいは怖くてできなくなった、チンコが変形して見られたくなかったなどの展開となります。

ヒトラーが束縛したことがおそらく一因になって自殺した姪のゲリ・ラウバル(Geliはあだ名ですが、どういうもんか、本名のように扱われています)は恋人だったと言っていいのでしょうが、肉体関係はなかったとの説が有力です。

 

 

next_vivanon

(残り 1792文字/全文: 3375文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ