松沢呉一のビバノン・ライフ

ヒトラー同性愛者説—ナチスはなぜ売春婦を抹殺しようとしたのか[ボツ編3]-(松沢呉一)

ヒトラー梅毒説・エーファ(エヴァ)・ブラウン淋病説—ナチスはなぜ売春婦を抹殺しようとしたのか[ボツ編2]」の続きです。

 

 

 

ヒトラー同性愛者説

 

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「同性愛者であることを隠したことのないエルンスト・レーム」が初期ナチスからの重要メンバーであり、ヒトラーの同志であったこと、他にも突撃隊にはあまりに多くの同性愛者がいたこと、それをヒトラーが容認していたことから、ヒトラー自身が同性愛者だったという説も出ています。ゴシップ紙の記事だけでなく、そう主張している-本も出てもいます。この説を検討したいのですが、邦訳は出ていないようです。

ゲイというよりバイだったと納得できる部分もあるのですが、そう考えなくても納得できる解釈があるため、これだけではなんとも言えない。

ヒトラー・ゲイ説の根拠の中には「レームと友人であった」というものもありますが、殺してますから、根拠にならんでしょうし、「ヒトラーは他人の下半身に興味がなかった」という説で説明が可能です。たしかに初期ナチスに同性愛者は多いのですが、それはレーム周辺の話であり、レームが隠していなかったため、その周辺の人たちも隠していなかったに過ぎないでしょう。

「死の直前まで結婚していなかった」というのも根拠として挙げられてますが、結婚していなかっただけで、エーファ・ブラウンとは長らく一緒に住んでいたのですから、これも逆の根拠と考えた方がよさそうです。

ヒトラーはエーファ・ブラウンの姿を公には晒さないようにしていて、客人が来ている時は出ていくことができなかったそうです。偽装のためであったら、表に出して初めて意味を持つのだし、早くに結婚していたのではないか。

ヒトラーはアイドルなので、結婚すると人気が落ちることを気にしていたとの説もありますが、「アーリア人の血を残すことが重要なはずなのに、どうして総統はそうしないのか」との疑念を抱かれてしまうので、政治的にも率先して子どもを大量に残した方がよかったはず。

ということで、この説に説得力はないのですが、不思議なのは、リアルタイムに書かれたもの、描かれたもので、ヒトラーが同性愛者であると示唆するものはほとんど見てないことです。

ここに出したプロパガンダ・ポスターは、よくある表現で、とくにヒトラーが同性愛者であることを踏まえたものではないでしょう。エーファ・ブラウンの存在は一般には知られていなかったのですから、同性愛者ではないかとの憶測がもっと出て来ていいのに、出てきていないことがかえって不思議なくらいです。あるいは連合国側でそういう揶揄がもっとあっていいと思うんですよね。

ないわけではないと思うので、引続き気にしておきます。

対独プロパガンダのポスター。よくある揶揄表現で、おそらくこれには深い意味はないだろうと思います。

 

 

必ず死のうとする恋人たち

 

vivanon_sentence戦争が終わる前にヒトラーもエーファ・ブラウンも死んでしまったため、真実は薮の中であり、隠されていた日記や手紙が見つかるなんてことがない限り、バカテクだったのか、粗チンだったのか、ベッドでどんなセリフを言ったのか、もはや永遠に真実はわからないでしょうし、わからないがために何言ってもいいことになってます。

私も勝手なことを言っておくと、不能ではなかったにせよ、また、童貞ではなかったにせよ、セックスに興味が薄かったように見えます。世の中には淡白な人がいくらでもいて、ヒトラーの場合はとくに淡白ではなかったにしても、壮大な夢を見ていたのですから、その実現の方が楽しかったのではなかろうか。

あんまり知られていないと思いますが、1920年代、37歳のヒトラーはマリア・ライターという17歳の娘に迫ってとつきあい始めています。通称ミミ(Mimi)。

彼女は肉体関係があったと戦後証言しています。しかもたびたび。「ワイはヒトラーとセックスしただす」と堂々証言したのは彼女だけでしょう(そうはっきり言ったわけでもないでしょうが)。

 

 

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