松沢呉一のビバノン・ライフ

元美容師の風俗嬢が多い理由—興奮する職業・しない職業[上]-[ビバノン循環湯 585] (松沢呉一)

何に書いたか不明。20年くらい前のもの。なお「美容院激増の事情」や「いかに下っ端は薄給か」については「刈り上げはもっとも高度な技術—美容院でカットモデルを初体験 上」で美容師が解説してくれています。

 

 

 

美容院が激増している

 

vivanon_sentenceまずは長い前振りに、おつきあいいただきたい。

なんであんなにたくさんの美容院が必要なのか、と頭を悩ませるくらいに、うちの近所には美容院が次々とオープンしている。駅からうちまでの間に目が届く範囲で言うと、10年前にこの街に来た時には、「オバちゃん美容院」が2軒、若向きの「オシャレ美容院」が1軒あっただけだったように思う。計3軒だ。ところが今は7軒もある。

同じ範囲で見た時に、この街には理容院が3軒ある。男が髪を切る回数より、女性が髪を切ったり、パーマをかけたりする回数の方が多いのだから、3対7であってもおかしくはないのかもしれない。

ちなみに歯医者は3軒だ。人口当たりの歯医者と理容院の数はだいたい一致し、美容院の数はその倍ということか。また、パチンコ屋は1軒だけあり、本屋は3軒、古本屋は3軒ある。パチンコ屋と同じくらいに風俗店があってもいいのかもしれないが、小さい街なので、地元の人は行きにくく、現実には1軒もない。

美容院が10年で倍増したのは、この街にもマンションが増えて、一人暮らしの若い女性や結婚していても働き続けている女性が増えたせいなのではないか。それにしても、そういった女性の数が倍以上になっているとは思われず、休みの日や仕事の帰りに渋谷や青山、原宿の美容院に行っているのも多いだろうから、客の取り合いになっていることが想像できる。

3軒から7軒に1軒ずつ確実に増えたのではなくて、できては潰れていて、競争が激しさが窺える。1年半くらい前に、商店街から離れたところにもう1軒美容院ができたが、これは場所が悪すぎたと見えて、半年くらいで潰れている。今残っている店もそれほど客が入っているようには見えず、どこもそうは儲かっていないんじゃなかろうか。

理容院に比べると、美容院は客単価が高い。最近はネイルまでやるところもあるので、1回で2万円3万円と落とす客もいる。男じゃこうはいかない。料金のほとんどは技術料であり、オープン時の設備投資を除けば粗利が大きい。また、アシスタントを雇ったところで、ギャラは思い切り安い。だからやっていけるのだろう。

※「Only 1929」 着色しました

 

 

美容師の収入と性風俗でのアルバイト

 

vivanon_sentence元美容師の風俗嬢によく会うので、ギャラの話を聞くと、ホントに安い。店によって違うのだが、最初の何年かは手取りで月に10万円台の前半。アルバイトでも社員でもその程度で、社員になったところでボーナスのない店が多くて、10年間勤めてマネージャークラスになっても月給は20万円程度だとも聞いた。

「美容師は実家から通っている人しかできないですよね。それか、早く男を見つけて一緒に住んで生活費を浮かすかしかないですよ」と元美容師が言っていた。

このコの場合はどちらでもなかったために風俗嬢のバイトを始め、結局こちらが本業になった。うちの近所の美容室も、営業時間が終わったあとまで若い美容師たちが友だちを呼んで実験台にして練習をしていて、あれでは週に1回の休みの日くらいしか風俗店では働けない。安い金で長い時間働かされるなら、いっそ風俗で金を貯めて、一足飛びに自分の店を持とうとするわけだ。

しかし、現実に金を貯めて自分の美容室を開いた話は聞いたことがない。ないわけではないのだろうが、修行期間がないのだから、技術が身につかず、客もついていないため、金があったとしても、そう簡単に店を持つことはできないのだろう

 

 

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