松沢呉一のビバノン・ライフ

アフリカを食い荒らす中国—脳内地図を修正する試み[3]-(松沢呉一)

なぜ中国では被害規模のわりに死者数が少ないのか、なぜ洪水の取材をそうも嫌がるのか—脳内地図を修正する試み[2]」の続きです。

 

 

 

インド人とネパール人とスリランカ人とバングラデシュ人の店

 

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時々果物や野菜を買う食料雑貨店があって、店員が話しかけてくるので、今までも軽い会話はしていたのですが、国までは聞いたことがありませんでした。インドのインスタントラーメンやお菓子も売っていますが、ネパール人の店でもインドの製品は扱っていますので、それだけでは国はわからない。「南アジア」ってことしかわからない。

3日ほど前に初めて国を聞いたら複雑でした。

経営者はインド人。従業員はネパール人とスリランカ人とバングラデシュ人でした。たぶん卸がメインで、店舗は小さく、立地も悪いわりに人が多いのです。

「何語で話すの?」

「みんな言葉が違うから、話す時はヒンディー語」

横で聞いていると、日本語も混じります。

「宗教もバラバラだね」

「バラバラ。ヒンディーとイスラムと仏教。私は仏教です」

と経営者。インド人で仏教は圧倒的少数派です。

「インドにいる時から?」

「そうですよ」

そう言ってレジ横に置いてある小さなインド風仏陀イラストを見せてくれました。

「インドで仏教徒は迫害されてますよね」

「そうなんですよ。盛り返してますけどね」

これは昨日今日ではなく、長い長い歴史を踏まえての話です。インドではイスラムとヒンディーに迫害され、ほとんど消滅という状態になっていたのですが、カーストから外れた不可触民たちが仏教徒となり、仏教再興運動となっていきます。つまりはインドにおける仏教は反カースト、反差別の象徴でもあります。この辺については不可触民についての本で読んでました。

「応援してくださいよ」

インドの仏教徒応援のために、予定していなかった桃を買いました。

※これはネットで拾ったものですが、こんな感じのイラストでした。

 

 

『アフリカを食い荒らす中国』で知った中国人たちの姿勢

 

vivanon_sentence「外国人を見ると話しかける活動」を地味に続けた結果、もともと親近感のあった南アジアがさらに身近になってきています。身近になるとともに、それらの国のことが気になって、ニュースもチェックするようになり、脳内地図が少しづつ書き換えられていきます。

銭湯好きのギニア人と話して以降、私の脳内地図でのギニアも少し大きくなりました。カメルーンやモロッコも。

失踪して強制送還されたジュリアス・セキトレコ(セチトレコ)選手の話を聞きたかった—ウガンダで民主化が成功しない理由」で取り上げたセルジュ・ミッシェル/ミッシェル・ブーレ著『アフリカを食い荒らす中国』に、この地味な活動の正しさを証明するような話が次々と出てきました。

日本語版のタイトルは些か下品ですけど、この本は取材した事実に基づく冷静な記述からなり、中国が一方的に力で支配しているのではなく、各国の政府、さらには国民までも中国支配を歓迎する様子が書かれています。まさにアフリカ諸国は再植民地化を歓迎しました。

ヨーロッパ諸国は民主主義なんて面倒なものを押し付けようとして、それに反するようなことをすると援助の打ち切りをほのめかし、時には予定していた援助金を凍結するために、独裁政権が困り果てたところに中国がやってきて、金を出す。この国は面倒なことは言わない。独裁でも問題なし。むしろやりやすい。

少なからぬ国民もそんなものではメシが食えない民主主義よりも、独裁のままでも仕事にありつけることを歓迎しました。1930年代のドイツに重なります。

 

 

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