松沢呉一のビバノン・ライフ

アフリカ人が嫌いな中国人たち—脳内地図を修正する試み[5]-(松沢呉一)

昨年広州市で起きたナイジェリア人差別は氷山の一角—脳内地図を修正する試み[4]」の続きです。

 

 

 

中国人はアフリカ人と結婚しない

 

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以下は、セルジュ・ミッシェル/ミッシェル・ブーレ著『アフリカを食い荒らす中国』から、ナイジェリアの中国人実業家の妻であるエイミー(彼女も中国人)と中国人たちのパーティを出たあとの会話。

 

 

十分に楽しんだエイミーと店を出て車に乗りこみ、ちょっと突っ込んだ質問をしてみた。

「ナイジェリアにいる中国人労働者は、性欲の処理をどうしているんだい」。

「中国人の売春婦が何人かいるけど、数が足りないの。あぶれた人は、中国に帰って奥さんとするしかないわ。年に一回しか帰れないけど」。

「アフリカの売春婦は買わないのかい」。

「ありえないわ。一晩でも一緒に過ごすことはないわよ。中国人とアフリカ人が結婚することがないわけじゃないけれど、ごくごく稀なケースよ」。

「どうして?」。

「どうしてって、アフリカ人が好きじゃないからよ」。

マンディという名前のナイジェリア人運転手が、この言葉に反応して後ろの席の方をちらりと見た。エイミーは、マンディを傷つける言葉を吐いたことに気づかないのだろう。窓の外を見ながら鼻歌を歌っていた。

 

 

カッコのあとの句点は原文通り。翻訳者の癖でしょう。

アフリカ人と結婚した中国人は本書にも登場しますが、極々稀であるのは事実のようです。青年協力隊のような活動でアフリカに行く人たちだとまた別として、日本人のビジネスマンでも極々稀だとは思いますが。

同性では性的な対象にならないからと言って同性愛者を蔑視していることにはならないのと同じで、人種的、民族的に性的な欲望の対象にならないから蔑視しているとまでは言えないかもしれないですが、アーリア人がユダヤ人やスラブ人とセックスすることをタブー視したナチス・ドイツのことを考えると、蔑視とセックスはまったく無関係というわけではないでしょう。

ここまで書いてきたことを踏まえても、これは蔑視の延長です。

また、ナイジェリア人の前で「アフリカ人が好きじゃない」と言えてしまうのは、黒人を人として見ていないってことですし、運転手を人として見ていないってことです。

このあと、ナイジェリア人運転手のマンディとの会話が続き、彼も中国人の妻を迎えることを否定するのですが、それは「地元の女が一番」という理由であり、こういう言い方をすれば波風が立たないものを。

なお、中国人売春婦の話はカメルーンでも登場し、彼女らは昼間は物売りをし、夜は売春するとのこと。

※『LA CHINAFRIQUE』の英語版『China Safari: On the Trail of Beijing’s Expansion in Africa』 仏語版、日本語版の写真の方がいいですが、日本語版の口絵にもパオロ・ウッズによるこの写真は掲載されています。コンゴ共和国のダム建設現場の写真。危険で重労働である地元労働者の賃金は1日日本円で330円程度。同国の法定最低賃金以下。これは中国人がピンはねしているためらしい(以下参照)。なお、エイミーの写真も口絵には出ています。メガネをかけたおばちゃんです。

 

 

アフリカ人労働者の現実

 

vivanon_sentence現地の食い物を口にしない、現地の言葉を覚えない、現地の人を好きにならず、同じ中国人だけでコミュニティを形成しているというところに留まれるならまだいいかもしれない。

こんな関係でも、アフリカの独裁政権とそこに追従する人々にとって中国はウィンウィンの関係を築くパートナーとして欠くべからざる存在であり、しばしば中国礼賛の言葉を語り、中国に対する感謝を表明します。

しかし、中国企業のもとでのアフリカ人たちの扱いはあまりに過酷です。

以下は同書よりコンゴ共和国の中国企業の建設現場で働くアフリカ人労働者との会話。

 

 

「優しいかい、中国人は」。

「優しくないね。おっかないよ。俺たちを奴隷だと思っている。ヘマをしたら、板でぶん殴られるよ。痛い目に遭うね」。

「殴られたことはあるかい」。

「あるよ。コンクリートをはねかけた時、怒って殴りかかってきたんだ」。

「クビにはならないの」。

「よく働いていればクビにはならない。殴られることはあるけど、クビはつながるよ」。

「でも、クビになる労働者もいるんだろう」。

「いるよ。毎週、ここから追い出される仲間がいるよ」。

「事故はないの」。

「あるよ。親指を丸鋸で切ったことがあるけど、補償はまったくなかった。薬もくれなかった。大けがなら追い出されるね」。

「この現場が終われば、次の職場を紹介してくれるのかい」。

「そんなことはないね。次の職場はないよ。ここが終われば、それでおしまいさ」。

「食費は自分で払うの」。

「そうだ。一食で五〇〇CFAフラン(約一〇〇円)だ。交通費も五〇〇CFAフランかかる。残るのは一日八〇〇CFAフラン(約一六〇円)だな」。

「有給休暇はあるの」。

「働いてなんぼだよ。現場に来なきゃ、給料はもらえない」。

 

 

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