松沢呉一のビバノン・ライフ

「新型コロナウイルスは実験室で人工的に作られた説」を中国政府までが支持—COVID-19の起源-(松沢呉一)

 

 

武漢ウイルス研究所漏洩説を陰謀論と決めつけていたのはピーター・ダザック

 

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日本のメディアではほぼ無視されてますが、ちょっと前に閆(閻)麗夢がまた論文を公表していて、前回ととくに代わり映えしないようだったので私はスルーしました。「信用できない」のではなく、「判断ができない」ってことです。

結局彼女は香港の研究者であったことの利点を活かした内部情報を持っているのではなく、科学的にウイルスが人工のものであることを立証するしかなくて、専門的な内容なので、私には理解ができず、よって判断ができません。

しかし、私も人工的に合成されたウイルスという可能性があるという説に傾きつつあります(「人工ウイルスが漏れたとしてもなんらおかしくない—フレッド・グテル著『人類が絶滅する6のシナリオ』より[5]」を参照のこと)。あくまで「可能性がある」ってだけですけど、「そんなことはありえない」という指摘には根拠がなかったのです。

閆麗夢と同様のことを指摘している研究者が続々出てきていて、「ありえない説」こそがありえなかったことが明らかにされつつあります。

「実験室で作られたウイルス説」だけでなく、「漏洩説」も「ありえない」としてきたのはとくにピーター・ダザックとその周辺の学者たちです。彼らが一斉に「ありえない」として、漏洩説までを「陰謀論」として葬ろうとしたために、メディアでもその流れができてしまいました。

ピーター・ダザックは米国政府や企業からの研究費までを握っている人物なので、その勢力下にある研究者は右にならえですし、反トランプという文脈であっさりリベラル系メディアもこれに便乗しました。

ピーター・ダザックは英人の動物学者であり、とくに動物と人間の間の感染症を専門として、コロンビア大で研究をする一方、米国のNGOエコヘルス・アライアンスの代表でもありますが、コウモリの研究で武漢ウイルス研究所と密接な関係があり、とくに正麗は研究のパートナーと言っていい人物です。

この人物がWHOの調査チームのメンバーだったのですから、茶番です。WHOもすでにピーター・ダザックの影響を排除していますし、各所で彼の新型コロナに対する発言は利害に基づくものであり、研究者としての倫理に反するとの指摘がなされています。

バイデン大統領が調査を一からやり直さなければならない旨を言っていたのはこのことを踏まえていることは間違いない。

NGOエコヘルス・アライアンスのサイトからピーター・ダザックのページ。たしかにコウモリが専門のようです。

 

 

中国政府も人工ウイルス説を打ち出した

 

vivanon_sentence新型コロナウイルスは実験室で人工的に作られたウイルスだった」という説は中国政府も推奨。

 

 

またも中国は、米研究所から漏れた説を言い出しているのですが、ここで注目すべきは「ウイルスは人工的に作られた」という説をとっていることです。すでに議論は「どっちが作って、どっちが漏らしたか」のステージに入っていて、コウモリだのなんだのから自然にヒトに伝播したという説はもはや相手にしていない。海鮮市場はどうでもよかったみたい。たしか中国政府は国外から冷凍された魚か何かを介して広がったという説も出していたはずで、その場その場で思いつきを言い過ぎでは?

中国のこの姿勢は、今までピーター・ダザックによって封じ込められてきた研究者間での反発も生みますから、そっち方面からも「武漢ウイルス研究所起源説」についての論評が次々出てきそうです。

 

 

報告書「THE ORIGINS OF COVID-19」が明らかにした経緯

 

vivanon_sentence中国のこの軽率とも言える姿勢は、先日、米共和党が出した報告書「THE ORIGINS OF COVID-19」の影響でしょう(以下、「報告書」)。

 

 

 

 

ピーター・ダザックの役割については以前から指摘されていましたが、この「報告書」で私もはっきり認識しました。ほとんど共犯と言っていいような人物ですから、そりゃ遮二無二否定するでしょ。

この「報告書」は説得力があります。「報告書」が出たとの報道を読んだ段階では、今まで通り、「状況証拠にはなるけど、決定的ではないなあ」と思ってしまいましたが、「報告書」を読むと、今まで出てきた情況証拠を並べるだけでくっきりとした流れが見えてくることがよくわかります。

中国政府の公式な見解としては2019年12月1日に初めて新型コロナの感染者が確認されたことになっています。

これに対して「報告書」は、8月下旬から9月にかけて武漢ウイルス研究所内で感染が始まったとしていて、以降の流れを追っています。

9月13日の午前2時から3時の間に武漢ウイルス研究所は大量のデータを非公開にしています。石正麗はxサイバー攻撃されたためだとしていますが、おそらくこの時から数日前までの間に、研究員3名の発熱や体調不良がウイルス漏れによるものだと確定したのだろうと思われます。

この頃から10月にかけて、近くの病院のトラフィックが増大したことを衛星のデータから分析。すでに感染は拡大していたのです。

 

 

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