松沢呉一のビバノン・ライフ

人工ウイルスが漏れたとしてもなんらおかしくない—フレッド・グテル著『人類が絶滅する6のシナリオ』より[5]-(松沢呉一)

とっくにティッピングポイントに達していたことを示したとしか思えない2020年の数値—フレッド・グテル著『人類が絶滅する6のシナリオ』より[4]」の続きです。「まだ少しは地球と人類に希望があるのかもよ—IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の「第6次評価報告書」」と「地中海沿岸・カリフォルニア・シベリアの森林が今も燃えている—フレッド・グテル著『人類が絶滅する6のシナリオ』より[付録]」も併せてお読みください。

 

 

COVID-19が人工的に作られた可能性はありあり

 

vivanon_sentenceここでウイルスの話をはさみます。これは人類の未来につながる話でもあります。

フレッド・グテル著『人類が絶滅する6のシナリオ』はパンデミックについても見事に予想しています。コロナウイルスに限定した話ではなく、インフルエンザに重きがありますが、インフルエンザに感染した人のスマホから、濃厚接触した人を割り出すといった仮想は、コロナ禍で一部実現しました。

「新型コロナウイルスは実験室で人工的に作られた説」を中国政府までが支持—COVID-19の起源」で、「人工ウイルス説はあり得ない」という考え方から「あり得る」という考え方に転向しつつあると書きましたが、その一因は本書にあります。

すでに人工ウイルスは世界のトップクラスの科学者だけが作れるものではなくて、大学生レベルの知識とちょっとした実験室があれば可能になっていることを本書でやっと知りました。この記述から10年近く経っているのですから、そのハードルはさらに下がっているでしょう。

技術はすさまじく発展したものの、新しいウイルスを生み出せるレベルの遺伝子工学は始まったばかりとも言えて、どこをどういじればどうなるかについてはまだわからないことだらけです。

新しいウイルスがどういう振る舞いをするのかも実際に作ってみないとわからない。だから作るのです。予めわかっていれば、そのウイルスが自然発生した時でも、バイオテロが起きた時でも対策がとりやすく、場合によっては事前にワクチンを製造することもできます。

ただし、生物兵器を研究するためではなくても、同時に生物兵器に転用できるものであることから逃れられません。善意の研究はつねに悪意の個人や集団に利用されることの怖さを著者は強調していますが、この流れはもう止めようがない。

※オーストラリアのニューサウスウェールズ州のサイトより、スマホによるコンタクト・トレーシングの方法を説明する日本語のガイドページ(PDF)

 

 

自陣営にも感染する生物兵器の可能性

 

vivanon_sentenceフレッド・グテル著『人類が絶滅する6のシナリオ』は自陣営も感染するような生物兵器を作ることがあり得るのかについても説明していて、ソ連はありとあらゆる有害なウイルスを保有して研究をしており、1970年代にウイルス合成ができるようになってからは、ワクチンの効かないタイプの天然痘ウイルスを保有していたらしい。これが漏れたら真っ先にソ連の国民が感染して死にます。

ワクチンの効く天然痘ウイルスはロシアと米国が現在も保有しているのですが、こっそり他の国でも所有しているかもしれないし、効かないタイプも今なおどこかにあるかもしれない。

なぜそんなもんをソ連が保有していたのかの理由までは書かれてないですが、たとえば「我が国を核攻撃すると、このウイルスをばらまく」と脅すことができます。人類のすべてを人質にとった、核抑止力としてのウイルスです。

 

 

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