松沢呉一のビバノン・ライフ

ドイツが手本にならない点・ドイツを手本にしてもよかった点—「コロナ自警団」はファシズムか[3]-(松沢呉一)

ロックダウンした国でも自警団が活躍した例—「コロナ自警団」はファシズムか[2]」の続きです。

 

 

群馬県と英国のケース

 

vivanon_sentence昨日も群馬県で、県外ナンバーの車に「二度と群馬に来るな!」との紙が貼られたと報じられていました。典型的な「コロナ自警団」の行動ですが、周辺住民は貼り紙をした方に迷惑がっていて、おかしな個人の犯行でしょう。こういうのはどこにでもいるものです。

ヨーロッパ各国でもとくに国境を越えてくる人々を追い返す行動は見られましたし、初期にはダイヤモンド・プリンセス号から日本人が、また、ウイルスが中国発であることから中国人がその対象となり、広くはアジア系に対する差別は各地で報告されています。

以下に出したSSは英国の例で、より狭い範囲での「部外者」「越境者」に対するバッシングです。群馬の例と同じ。

別荘で過ごしていた家族に対して、村人と思われる人から、「GO HOME」と書かれた紙が投げ込まれ、同様の看板が出され、車にも落書きされたという内容で、このデヴォン州の警察には他にも多数の報告が届いているとのこと。

集団でやっているのか、こういう個人が多数いるのか不明ですが、英国もロックダウンしていたのですから、「強い対策をとるから自警団的な動きは起きない」とはとても言えない。

両国をそれぞれたったのひとつの事例で比較することはできないですけど(時期も違いますし)、このふたつを見る限り、英国の方が激しく、広範囲です。

※2021年8月30日付「上毛新聞

 

 

政府の姿勢とコロナ自警団の関係

 

vivanon_sentence前回から見てきたように、政府の姿勢とコロナ自警団の活動の関係は「政府の弱い姿勢によって不安になって自警団が活動を活発化させる」という田野教授の仮想だけでなく、「政府の強い姿勢を後ろ盾にして活動を活発化させる」ということもあるわけです。

また、「政府がどうしようと活動する」ということも十分考えられます。世間が騒然としている中で誰かを叩きたいという常日頃抱いている欲望を発散させる人が一定数いるってことです。

それらの中で田野大輔教授が「政府の弱い姿勢によって不安になって活動を活発化させる」という法則のみを採用している理由がわかりません。この選択が間違っていたら、田野教授は根拠もなく、ただ政府の強い姿勢を求めていることになります。コロナ自警団の存在を利用して、自身の考えを実現しようとしていないか?

しかし、私も「自粛要請」という曖昧な方法が、日本的自警団を生んだ可能性を完全には否定できないとは思ってます。

田野教授は「政府が『自粛』要請という形で、個々人に辛抱を強いることで問題を解決しようとしていたことが、結果的に人々の不安を増大させ、異端者への激しい非難を引き起こした」と言ってますが、「政府や知事が『自粛』要請という形で希望を述べたことによって、公権力が踏み込めない領域に人々を駆り立てた」と見ることもできます。「安倍さん(菅さん)や小池さんや吉村さんが困っているのに、どうして協力しないのか」ってわけです。

もしそうだとすると、ロックダウンをした場合は「安倍さん(菅さん)や小池さんや吉村さんの気持ちを徹底しよう」ということになって、中国的、フィリピン的自警団が誘発されたのではないか。ここは私もわからないのだけれど、田野教授の考え方はあまりに一面的であることを確認しておきます。

※2020年3月29日付「BBC

 

 

自主隔離のとらえ方

 

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朝日新聞デジタル」に掲載された田野大輔教授のインタビューの中で「ここは正しそう」と思った点があります。

 

――ドイツでも、コロナを巡って特定の人たちを責めるような言動があるのでしょうか。

「当初、一部でアジア人への差別的な言動が生じましたが、感染が拡大してからは、そうした動きはありませんね。早い段階で、政府が外出制限・休業補償などの対策を打ち出し、国民の支持を得たからでしょう。テレビや新聞の報道でも、感染を個人的な問題ととらえる視点が全くありません。個々人に責任を押し付けようとする日本とは対照的です。

日本では、政府が『自粛』要請というあいまいな対策で危機をやり過ごそうとしたために、多くの人々の間で不安が高まっていますが、それが異端者をたたこうとする言動につながっているんだと思います。これを防ぐには、人々の不安を解消できるような明確な対策を打ち出すしかありません」

 

 

「テレビや新聞の報道でも、感染を個人的な問題ととらえる視点が全くありません」という点。

 

 

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