松沢呉一のビバノン・ライフ

ネスビットは無政府主義者・共産主義者のスポンサーだった?—イヴリン・ネスビットの華麗すぎた一生[下]-(松沢呉一)

トップモデルが大富豪と結婚し、やがて夫は殺人犯に—イヴリン・ネスビットの華麗すぎた一生[上]」の続きです。

 

 

アルコールとドラッグの依存症、自殺未遂、二度目の離婚

 

vivanon_sentenceスタンフォード・ホワイトに強姦されたとの件は死人に口なしで、実際に何があったのかわからないのですが、その事件以降もイヴリン・ネスビットとホワイトは交友が続き、また、ネスビットは他の男ともつきあって、この時はホワイトが嫉妬に狂っています。

ソーによるホワイト殺害を契機にネスビットの行状もメディアに書きたてられて、結婚前に表向きは盲腸の手術と言っていたのはその時の相手の子どもを堕胎したのではないかとの疑惑も出てきます。

その真偽はわからないなから、ネスビットはいろんな男を手球にとって、果てにもっとも金のある男と結婚した悪女にも見えます。

ソーは有り余る金を使った乱痴気パーティを繰り返していたことも明らかにされ、世論の印象は決してよくなかったのですが、弁護側は彼は精神を病んでいることを主張して無罪を勝ち取り、ソーは精神病院に入院させられます。

ネスビットは精神病院を訪れた際に妊娠し、1910年にドイツで出産。しかし、ソーは自分の子どもとは認めず。

1915年にソーは病院から出されて離婚。翌年、ネスビットはダンサーと再婚し、ふたりで公演を始めますが、あまりうまくはいかなかったよう。彼女は喫茶店を経営していましたが、アルコールやドラッグの依存症で苦しみ、自殺未遂も起こし、1933年に2度目の離婚。

以降はバーレスクに出演。40代後半から50代にかけてですが、「あのネスビット」ということで話題になったのでしょう。

回顧録を出したり、映画に関わったりしていましたが、引退後はカリフォルニアの介護施設に入り、1967年、死去。

Woman: the Eternal Questionby Charles Dana Gibson チャールズ・ダナ・ギブソンは19世紀末から20世紀にかけての米国を代表するイラストレーターで、彼の描く女性のイラストはギブソン・ガールズと呼ばれ、そのモデルたちもギブソン・ガールズと呼ばれました。この作品はネスビットをモデルとし、髪型が「?」になっていて、タイトルの「永遠の謎」とひっかけています。

 

 

ネスビットはエマ・ゴールドマンに金を流していた?

 

vivanon_sentenceWikipediaを読んでいて、「えっ?」と思ったのは、ネスビットは裁判のあと、ソーから25,000ドルを受け取っていて、それをエマ・ゴールドマンに寄付したことです。「ビバノン」を読んでいる人はおわかりのように、伊藤野枝に多大な影響を与えたアナキストです。

エマ・ゴールドマンは『世界を揺るがした10日間(Ten Days That Shook the World)』の著者であるジョン・リードにその金を流したとWikipediaに書かれています。ジョン・リードはジャーナリストであるとともに共産主義者の活動家です。

25,000ドルは現在の日本円で7億円から8億円に相当。この金は、裁判でネスビットがソーに有利な証言をした報酬とも言われています。精神に異常があったことではなく、殺されたホワイトがいかにひどい男であったのかについての証言だろうと思われます。

エマ・ゴールドマンに金を寄付したという話はネスビットの孫がネスビットの死後に証言したものです。しかし、金をエマ・ゴールドマンに寄付したことについては否定論も出ていて、真偽は不明です。

 

 

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