松沢呉一のビバノン・ライフ

ペットを飼いたい欲望は他者を支配したい欲望と紙一重—動物のバイアス・女子供のバイアス[中]-(松沢呉一)

動物虐待の話題で宅八郎の言葉を思い出した—動物のバイアス・女子供のバイアス[上]」の続きです。

 

 

生物のバイアス

 

vivanon_sentenceアクセス数で報道の価値が決定する時代に—公開本数3,000本達成[下]」に書いたように、メディアがアクセス数を判断基準にすることで、複雑な記事より簡単な記事、国外の記事より国内の記事、総裁選よりペットの記事を優先するようになる傾向がすでに出てきているように見えます。

あの回に出した「FNNプライムオンライン」のアクセスランキングで、10位までの5本がペットの話題でした。ほかに食用の魚についての話題が1本あって、10本中6本までが生き物の話題です。

魚については3割が食べられずに捨てられているという内容なので、野生生物にも少し関係しつつ、食材の話題です。「収穫した米の3割が捨てられている」「料理店が作っている料理の3割は捨てられている」という話と大差ない。つまりはこれは食い物の記事であり、「どこそこのラーメン屋がおいしい」という記事と同じジャンルです。グルメジャンル。

これも同じ。

 

 

このネタは各局が報じてますが、日テレ「バンキシャ」は、ウニが食べるキャベツの量や好き嫌い、研究者のキャラにまで踏み込んでいてもっとも面白かったです。

キャベツウニ神奈川県水産技術センターで実験が始まったという報道が何年か前から流れていて、「ウニが食ったことのないはずのキャベツをガツガツ食う」って映像だけで虜になりましたが、昨年からスーパーやレストランに出荷されているんですね。

食いてえ。ウニスパゲティが私は大好きでしてね。与える野菜や果物によって、今までにない味の絶品ウニも生まれそうです。野菜や果物じゃなくて雑草でもいいんかな。

さらには設備があれば、海で拾ってきたスカスカのウニを自宅でおいしいウニに変貌させられるってことか? 「ウニキット」を売ると売れるかも。

という方向に進みそうですが、その前に磯焼けはヤバいでしょ。温暖化で海藻が全滅ですよ。時間が経つと、南方の海藻が繁茂していくのかもしれないけれど。

しかし、これだけではニュースにはなりにくく、なってもアクセスは稼げない。グルメに持っていって初めて人気ニュースに。

 

 

山火事とプランクトンの関係

 

vivanon_sentence少なくともあの時点の「FNNプライムオンライン」では純然たる野生生物の話題がひとつもない。時には上位に入ることもありましょうけど、たいていは「東京世田谷区の住宅街にニホンザルが現れた」「北海道旭川市でクマに人が襲われた」「千葉県の各所でキョンが野生化して農作物を荒らしている」といったように、人間との接点で登場します。こういうニュースは私もマメにチェックします。

対して温暖化によって生物の生態や形態に変化を生じさせていて、今まで生息していた動植物が消えたといった話題はなかなか上位に入れないのではなかろうか。

ホッキョクグマが絶滅寸前とか、気温が上昇している地域では熱を放出するために鳥の嘴が大きくなったり、哺乳類の耳が大きくなったりしているとか、オーストラリアの山火事の影響で南半球で植物性プランクトンが異常発生しているとか言われたって、北極海も南極海もアマゾンも身近ではないし、ペットとして飼ったことのある動物じゃないと身近ではないので、どうでもいいということもあるのでしょうが、前に取り上げた「野生化した猫がアマミノクロウサギを襲っている」という話も上位にはなりにくいかもしれない。猫は身近なのに。

※2021年9月15日付「nature」 掲載「Widespread phytoplankton blooms triggered by 2019–2020 Australian wildfires」 日本語記事は「GIGAZINE」参照。この論文のアブストラクトしか読んでないですけど、「地球温暖化によって何が起きているのか」を知ることができると同時に「地球温暖化によって何が起きているのかを十分に知ることはできない」ということも知ることができます。2019年から翌年にかけてのオーストラリアの山火事によって鉄分を含んだエアロゾルが広範囲に拡散されて海に落ち、鉄分を必要とする植物性プランクトンが3ヵ月にわたって増殖したことが衛星写真を分析してわかったという内容。植物性プランクトンはCO2を吸収するため、山火事で放出されたCO2はプランクトンの増加分で吸収された可能性があるのとともに、それ以外にもさまざまな成分を海洋に撒いたことや一時的なプランクトンの増殖は海洋の生態系を破壊した可能性もあります。山火事がこんな影響をもたらすことがやっとわかってきていて、人間にはまだわからんことがたくさんあるので、これから何が起きるのかもわからないことだらけです。

 

 

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