松沢呉一のビバノン・ライフ

自警団的行動より構造的差別を危惧するドイツの研究者に同意する—「コロナ自警団」はファシズムか[4]-(松沢呉一)

ドイツが手本にならない点・ドイツを手本にしてもよかった点—「コロナ自警団」はファシズムか[3]」の続きです。

 

 

 

すっきり同意できた差別を専門とする研究者のインタビュー

 

vivanon_sentenceもうひとつ事実確認。ドイツでは「一部でアジア人への差別的な言動が生じましたが、感染が拡大してからは、そうした動きはありません」という「朝日新聞デジタル」での田野大輔教授の発言。

ドイツだけではないですが、たしかに当初はダイヤモンド・プリセンス号のために日本人を忌避する動きがありました。これ以降はどうなのか。

ちょうどこのインタビューと同じ2020年5月にドイツの「bpb」に出たフライブルク教育大学社会学研究所(Soziologie-Instituts)所長であり、差別問題が専門であるアルベルト・シェールのインタビューが参考になります。

シェール所長も、ドイツではっきりと確認できているのはアジア系に対する差別であるとする一方、国境地帯では外から来る人たちへの攻撃的な空気が強まっていることを指摘しています。田野教授が「ありませんね」と断定しているほどは楽観的ではありません。

しかし、こういったものは一時的であって、さほど心配するほどのものではないとしていて、シェール所長は社会構造上の差別に対する危惧に多くを割いています。移民、外国人労働者を筆頭とした末端労働者たちであり、貧困層を対象とする差別です。

この層はリモートワークでは済まない労働に従事しているため、感染リスクも高い。これ自体が差別構造に基づくと言えると同時に、このことによって直接的差別に晒されることにもなります。

厳しい対策をとればとるほど、全体の感染者は減る一方、彼らは感染リスクの高い層として浮上し、あるいは失業して貧困に陥り、差別の対象になりやすいということになります。

日本では一部を除いてスーパーやコンビニはどこもやっていて、食料雑貨店もやっていました。飲食店などで働く一部外国人は仕事がなくなったり、減収したのがいますが、厳しいロックダウンをすることに比べればダメージは少なかったはずです。あくまで比較の問題に過ぎず、むしろ私は「もっとダメージを少なくする方法があったのではないか」との思いが強い。

私がドイツで手本にしたいのは、移民や外国人労働者が多く、それに対する反発も強い国における差別についての考え方です。同じくインタビューですから、こちらも十分に語れているわけではないでしょうが、シェール所長の言葉には疑問なく同意できました。

※2020年5月15日付「bpb

 

 

厳しい対策は誰にしわ寄せが行き、誰が攻撃対象になるか

 

vivanon_sentenceコロナ禍における差別の対象は大きくみっつありそうです。ひとつは感染している可能性が高いと思われているグループです。多くの国で、日本人と中国人を中心としたアジア系がそうでした。

ふたつめは感染している可能性が高いか低いかを問わず、「外から来る者」です。国境沿いのエリアで外から来る人たちを拒絶する。中国ではナイジェリア人が対象になりました。コロナ禍以前から住んでいた人たちでも追い出される。米FBIのデータでも、昨年報告されたヘイトクライムは前年より6.1パーセント増加し、アフリカ系とアジア系の人々に対するものが増加したとしています。

もうひとつはそれとかぶりつつ、もともと蔑視を向けられてきた人です。ストレスのはけ口になる。「「ライプツィヒ権威主義研究」から考えたこと」で見た「潜在的差別」の顕在化とすることもできましょう。

移民や外国人労働者は外から来た人々であり、もともと蔑視を向けられやすい上に感染リスクが高く、事実、ドイツでも移民や外国人労働者の間での感染が問題になってました。食えなくなった人たちは犯罪に手を染める可能性もあります。いよいよ警戒心が強まるでしょう。

強い対策をとればとるほど、そこにしわ寄せが行くことは明らかです。百歩譲って、自警団を生まないのだとしても、社会構造上の差別や直接の言語的、肉体的差別を招きます。

ずーっと言っていたように、経済的な停滞はその層に負担を押しつけますから、田野教授が求めるような強い対策に私はずっと反対してきました。「自警団さえ生まなければ、差別や排外主義が強化される社会になってもいい」なんてことはあり得ないでしょう。

※Albert Scherr著『Systemtheorie und Differenzierungstheorie als Kritik: Perspektiven in Anschluss an Niklas Luhmann』 シュール教授には多数著書があります。これは差別システム論がテーマで、たぶん このインタビューで語られているような内容が含まれていましょう。

 

 

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