松沢呉一のビバノン・ライフ

ビル・ゲイツの発言で人口抑制策の意義を知る—感染症のワクチンが人口抑制になる理由-(松沢呉一)

貧困・食糧危機・水不足・紛争・環境破壊の根底にある問題を見据える—教育(とくに女子教育)の意義」の続きです。

 

 

 

人口抑制活動の誤解を解く

 

vivanon_sentence露骨な罵倒は控えましたが、「心のナチスも心の大日本帝国も抑えろ」シリーズを書いたきっかけになった講談社「現代ビジネス」2018年10月8日付「エコの代名詞「有機農業」が、ナチスと深く関わった過去」に対しては強い苛立ちがありました。

優生思想によるユダヤ人・ジプシー・障害者などの虐殺とアーリア人の繁栄とをカップリングしたナチスの人口政策と、国連人口基金や各国政府、各種民間団体が進めてきた人口抑制策とを糞ミソ一緒にして否定するあまりに杜撰な論です。

こんな論が成立するなら、学校の性教育で避妊方法を教えるのはナチスの優生思想と同じだからとして否定するしかなくなります。現実に人口抑制策は、性教育で避妊方法を教えることの延長です。

性教育も人口抑制も、どうすれば妊娠をするのか、それを防ぐためにはどういう方法があって、それぞれどういうメリットとデメリットがあるかをを踏まえて、自分はどうするのか考える。性教育と人口抑制がちょっと違うのは、人口抑制策では、その知識を得た人たちがそれらの中から自分に合った方法、自分の家族に合った方法を直ちに選択することが期待され、貧しくてもその実践ができるように、安価で、あるいは無料で施術をして、今いる子どもで打ち止めにし、以降はできなくする。少なくともできにくくする体制作りが多くの場合付随しています。

人口問題を語るのであれば、この程度のことは認識していてしかるべきだと思うのですが、どうやら先進国ではだいたいどこの国でも正確に人口抑制がどうなされているのかについては知らない人が少なくないようです。現実に国連人口基金や人口抑制をテーマにしているNGOの活動は発展途上国でなされるため、その活動が身近ではなく、それらの組織や団体自体が身近ではありません。そのことが理解を遠ざけています。

日本でも学校を建てて維持すること、学費を先進国で負担すること、文具を寄付することについては理解されていましょうが、教育レベルを上げることは、人口問題の解決につながるし、教育レベルの向上なくしては人口問題を解決することができず、食糧、水、感染症といったさまざまな問題の解決も困難のままになることは前回見た通り。

だから、人口が増加する発展途上国においては、なにより教育が優先されてよく、仮にそこまで見据えていないとしても(学校に関与している人たちはたいていそこまで見据えていると思いますが)、マゴソスクールのような学校には意義があり、支援する意義もあるのです。

決して教育はそこで留まるものではありません。

国連人口基金・駐日事務所のFAQページだけでも目を通すとよいかと思います。

 

 

ビル・ゲイツと人口抑制論

 

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人口問題は広く先進国の国民にとっても重要課題であり、発展途上国への援助を考える上では必須の認識です。

しかし、人口抑制に対する批判はつねにあります。国連人口基金にせよ、各NGOにせよ、直接に妊娠中絶を推奨するようなケースはあまりないと思いますが、しばしば人口調節活動は誤解されて、宗教原理主義者たちからの攻撃を受けますし、誤解ではなく、ピルやIUDまで否定する教団もあります。さらには、ナチスの優生思想と同一視する人たちまでいるわけですから、報われない活動ですよ。

昨今、人口抑制策に対して、もうひとつ、おかしな見方が広がっているようです。Qアノン信奉者の一部による「ビル・ゲイツがワクチンで人口を減らそうとしている」との説です。

たしかにビル・ゲイツは人口抑制論者です。ざっとその発言をチェックしてみましたが、ワクチンで人口を減らそうとしているのは事実として、Qアノンが主張するように、ワクチンによって人を殺そうとしているのではありません。まったく逆です。

 

 

 

 

人口抑制論を理解していれば誤解することはないはずですが、病気の死者を減らすことは人口抑制と矛盾することのようでいながら、人口抑制策はしばしば感染症対策とパックになっています。どうしてこのふたつが両立するのか、ビル・ゲイツの主張に沿って説明しましょう。

 

 

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