禁煙して1ヵ月で物足りなく思っていること—コロナ禁煙のじいちゃんとの会話-(松沢呉一)
外的誘惑を跳ね除けて禁煙は完結する
今回の禁煙について初めて書いたのは、禁煙3日目をクリアしてからでした。その気になればいつでもやめられるとしながらも、やめられないこともあって、事前に「やめるぞ」と宣言したり、初日から「タバコをやめました」と宣言するのは、自分を追い込む効果があるのと同時に、すぐに挫折してみっともないことになるリスクがあります。
その点、もっともきつい3日間をクリアすれば、挫折の可能性が大幅に減る実感があるので、それから公開しようと決めてました。また、禁煙したと公開すると、妨害が入ることがあるため、「もう大丈夫」というところまでは公開しない方がいいということもあります。
ただ、今になってみると、そこが物足りなさにもなってます。
すでに禁煙1ヶ月を過ぎてますので、胸を張って「禁煙した」と言っていいはずですが、内的誘惑には打ち勝っても、外的誘惑を跳ね除けていない分、我が禁煙には弱さがあります。
顔が日焼けでボロボロになった人が近づいてきて、「松沢さん、10年前にカンチェンジュンガを制覇して、山頂でタバコを吸った時はおいしかったですよね」とタバコを差し出してきたり、今や大物となった女優が近づいてきて、「松沢さん、私がまた無名だった頃にラブホに行って三日三晩セックスした時のタバコはおいしかったですよね」とタバコを差し出してきたり、老宇宙飛行士が近づいてきて、「NASAの秘密計画で、ともにアポロ計画で月面に降り立って、人類で初めて地球外で喫煙する実験をした時のタバコはうまかったですよね」とタバコを差し出してきた時にも「いや、タバコはもうやめたから」と断って初めて禁煙に成功したのだと言えるように思います。
そんな大物たちじゃなくても、禁煙したと言うと、必ずや1本差し出すのがお約束なのですが、今回私は一度も経験していない。そこが納得しにくいところです。プロ野球球団の投手になって、出番はあれども一度も勝利投手になっていないので、高校の野球部のみんなが入団おめでとうの祝賀会に開いてくれると言ってくれているのに対して、「勝利するまで待って欲しい」と言っているようなものです。
いっそこっちからタバコを吸う知人に連絡をして会うといいかもとも思うのですが、知り合いだと、タバコを断ってすぐに別れるわけにもいかず、ご飯を食べたり、茶を飲んだりするわけですよ。そうすると、吸ってしまいそうな気もして、これでは元も子もない。タバコを吸う人と1時間2時間一緒にいても、タバコを吸わない自信ができるまでにはあと1ヶ月必要かもしれない。
銭湯の開店待ちでの出来事
禁煙2ヶ月目に入った初日の夕方、銭湯に行きました。古いマンションの1階にあって天井が低く、とくに取り柄のない銭湯なので、1回行っただけの銭湯です。
1回行って「もういいや」と思った銭湯は2度行ったところで評価は変わらないことの方が多いものですが、たまに最初は気づかなかったいい点を見つけたりして、「悪くないな」と思い直したりしますので、そういう銭湯も時々行ってます。
開店時間より少し早く着いて、じいちゃんが3人、ばあちゃんが1人待っています。口開けを待つ客はもう少しいることが多くて、この銭湯はじっちゃん、ばあちゃんにもそんなに人気はなさそうです。
稀に脱衣場、待合室、縁側でタバコが吸えるようになっている銭湯が今もありますが、20軒に1軒ももうないかもしれない。建物の中だけじゃなく、入口の灰皿も撤去されてしまった銭湯が多くて、建物の外に灰皿があるのは10軒に1軒、あるいはそれ以下か。
その銭湯も灰皿はないのですが、かまわず、じいちゃんはタバコを吸ってます。携帯灰皿も持っておらず。
と、その横にいたじいちゃんがこう言いました。
「禁煙してずいぶんになるけど、まだタバコを吸いたくなるよ」
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