「今ここにいる私」とは別の視点—メタ視力とは?[上]-(松沢呉一)

2021年10月30日 22時16分　
カテゴリ： YouTube • メタ視力・島視点 • 小滝橋 • 新宿区 • 映画 • 歌舞伎町 • 演劇 • 漫画 • 芸人 • 音楽
タグ : [Alexandros] • しずる • メタオチ • メタ表現 • メタ視力 • メタ視点 • メタ議論 • 寺山修司 • 岡崎体育 • 村上純(しずる) • 野間易通

メタ視力再び

ずーっと前から、「ビバノンでも一度説明しておきたい」と思いつつ、面倒臭くて後回しにしていたことがあります。「メタ視力」についてです。

「メタ視力で説明するとわかりやすいな」と思うことがこれまでにもたびたびあったのですが、とくにここに来て、メタ視力を応用すると理解がしやすくなる現象がさまざま出てきているので、ざっと説明しておくことにしました。

始まりは今から10年以上前です。野間易通とまだ面識がなかったばかりか、名前すら認知していなかった頃のこと。彼はHNを使っていくつかの掲示板で暴れていました。どこの誰かわからないまま、「こいつは面白いな」と眺めていたのですが、ある時、「メタ視点」という言葉を使っていました。メタなフェイズから物を見るという話。

これだけなら別段どってことのない用語であり、彼のオリジナルってことでもないでしょうが、この時だけでなく、彼は議論がメタに流れることに対して敏感に反応するところがあって、彼自身、メタ視点を得る能力が高いと私は見てました。

彼は仮定法に基づく表現が理解できない人に苛ついていたことがあって、これもフェイズの変化やフェイズの関係を理解できない人たちの欠陥です。私自身、同じ苛立ちを感じることがよくあります。

最近で言えば、私は全国フェミニズム議員連盟の人が口紅をつけてNHKに出ていたことをあげつらいましたが、それ自体を非難したいのではありません。口紅をつけるもつけないも、化粧をするもしないも、ミニスカートをはくもはかないも、腹を出すも出さないも、個人が決定すればいいと私は思っていて、その選択を尊重します。

しかし、全国フェミニズム議員連盟は女がミニスカートをはくこと、腹やへそを出すことを性的対象であることの表示だとして警察の動画で起用することを否定したわけです。であるなら、議員や大学講師という公的存在である自分が公共放送に出る場合に口紅をすることも否定されなければおかしいという指摘です。口紅を否定したいのでなく、ダブスタを指摘し、あの人たちの論理は「社会の道徳が容認してきた性的アピールたる女らしさを無批判になぞり、社会の道徳が否定してきたあばずれのアピールを否定する」というものでしかないことを明らかにする意図です。

「あなたの論で言えば」とひとたび相手の論に乗った上で相手の矛盾点を指摘する論法ですが、これを理解できない人がよくいて、今回の例で言えば「松沢は女が口紅をつけることを否定した」と言い出すのがいたりします。180度違っています。

※2021年10月29日付「デイリースポーツ」　戸定梨香のキャラを管理する板倉節子氏と大田区議会議員の荻野稔氏が記者会見を行ったことを報じる記事。まだまだ話は続いています。全国フェミニスト議員連盟はこのまますっとぼけそうなので、批判し続けた方がよさそうです。

メタ表現のさまざま

野間易通であることをまだ知らなかった野間易通の発言から始まって私は「メタ視力」という考え方をメルマガで提唱して、延々とこれを論じてました。

「メタ」とは「今現在進行しているフェイズとは別のフェイズ」であり、しばしば「今」の前提になっている土台を問い直すような視点のことを言います。何かについて議論をしている時に、その議論が適切か否かを議論するようなメタ議論がその典型です。

「メタ表現」が多用される分野として漫画が挙げられます。ストーリーの途中で漫画家自身が登場して、「寝てないので絵が粗くてすまん」と謝ったりして、進行している舞台とは別次元からの表現をします。

映画でも1970年代あたりには、登場している役者が「こんなのはどうせ虚構なんだよ」と画面に向かっていきなり語り出すような実験的な作品がありました。寺山修司監督「書を捨てよ町へ出よう」にもそんなシーンがありましたし、「田園に死す」もラストはメタオチです。

前提をひっくり返して、「すべて虚構」としてしまうので、失敗すると興ざめになるテクです。

ひっくり返すわけではなく、登場人物は役者という設定で、彼なり彼女なりが映画内で映画に出演して、その映画が映画の中で進行していくようなものもあります。やがてはそのふたつのフェイズが互いに侵食していったり。それがいい効果になっているとは思えませんでしたが、吉田喜重監督「エロス+虐殺」もそうです。

こういった趣向では、始まりを土台として、映画内映画がメタという関係になることもあり、あるいは両者が互いにメタという関係になることもあろうかと思います。

※私もそんなに意識はしていなかったですが、短めのスカートはホントに多いっすね。この写真は高円寺。学生でしょう。2人ともどっから見ても「かわいい」って格好ですが、全国フェミニズム議員連盟にとっては性的です。エロで頭をいっぱいにするのは個人の趣味としては自由ですが、それで表現を規制しようとするのは不当。税金でメシを食っている議員となればいよいよ不当。戦前の家父長制道徳そのものですから、フェミニズムともっとも遠いところにいる人たちであり、フェミニストと自称するのも不当。なぜこうなったのかもメタ視力で説明可能。

コントのメタ性

コントも、「じゃあ、これからその時のオレを再現するから、おまえは警官をやってくれ」といったように、メタな軸が同時に進行し、錯綜するものがあります。コントは虚構性が強く、同時に虚構を成立させている枠組みが弱いので(最低限の大遠具・小道具しか使わないなど)、簡単にメタな視点が移動する特性がありそうです。