松沢呉一のビバノン・ライフ

国家の場合—働いている職場での不正にどう対処すべきか・住んでいる場所の不正にどう対処すべきか[2]-(松沢呉一)

ラーメン屋の場合—働いている職場での不正にどう対処すべきか・住んでいる場所の不正にどう対処すべきか[1]」の続きです。

 

 

 

ダブスタを避けるためには黙ればいい

 

vivanon_sentenceたとえばラーメン屋の従業員がいたとして、そのラーメン屋のチェーンでは、「熊本産の黒豚を使ったチャーシュー」と銘打っているのに、実際には輸入豚肉を使っていることを知って、行政やマスコミにたれ込む行為は褒められていい。ラーメン屋の中では白い目で見られ、店にいられなくなりそうだったら社会は守ってやるべきです。

かといって、クビになるのが怖くて黙っていた場合に批判されるべきでもない。ただ黙っていただけなら批判できない。しかし、嘘だとわかっていながら、仕事を超えて積極的にSNS等で「熊本産」と喧伝していたら批判されていい。

前回書いたことをざっとまとめるとそうなります。これに該当しないケースもありそうですが、広く職場での不正に従業員がどう対処すべきか、また、対処しなかった時はどうとらえるべきかの普遍的な答えになっていようかと思います。

この時に、黙っていた従業員は、「国産小麦粉を使用」と言いながら輸入小麦粉を使っている他店を糾弾する資格を失ってます。それをやった場合も批判されていい。「どのツラ下げて」ってことです。

自分が働く店の不正に目をつぶるのであれば、同時に他店の不正を批判しないことで公平な地位を守るしかないのです。

この場合、自分に都合よく、逆の対応をするのもいそうです。「社会の悪のうち、自分が働く店の悪事は言えない。その分、他店の不正を叩くことでバランスをとるのだ」と。これは自分勝手なズルです。他店を潰すことで自分の働く店が生き残り、自分が働く店が儲けることをサボートし、ひいては自分のメリットを追求していますから、間接的な不正の加担です。

※すでに産地表示は消えてますが、「麺匠 八雲」のサイトより「お品書き

 

 

中国で本を出すとしたら

 

vivanon_sentence前にどっかに書いたことがありますが、もし中国の出版社から私の著書を出したいという話があったら喜んで出します。しかし、それが政府系の出版社で、契約書の中に「中国政府の批判をしない」という一文があったらお断りします。政府系の出版社であっても、さすがに契約書にそんな文言は入れないでしょうけどね。そんなことをしなくても、ほとんどの人は金が欲しくて中国政府批判はしなくなり、自ら広告塔になります。

私も印税欲しさに中国共産党批判を減らすかもしれない。あるいは出版を打ち切られない程度の内容に留めます。その分、香港から脱出した人たちの支援をする団体に寄付をするか、匿名で批判を続けるなどして、どっかでバランスをとります。

あるいはそのバランスは、「日本政府を批判しない」という方法でなされるかもしれない。金のために中国政府の批判をやめた段階で、私は日本政府を批判する資格を放棄していますので、そちらも黙ることでバランスをとります。

これはすごく大事なことで、「批判しやすい対象の批判だけする」という姿勢がもたらすのは「批判が自由にできる国家の批判の方が表現の自由を認めない国家の批判より多くなる」という結果です。

ラーメン屋のA店のオーナーは前科があって何をするかわからない半グレであり、批判することは怖い。ライバル店であるB店は脱サラした人のいいオーナーで、こっちは批判しやすい。批判しやすい方だけ叩くことによって、B店が潰れてA店が残るのは理不尽です。

金のために中国政府を批判しないのであれば、他の政府も批判しない。そうしない限り、他国を貶め、結果、より悪辣な中国共産党をヨイショすることになりますし、中国共産党は「表現の自由なんて断じて認めるべきではない」と確信しましょう。

ストリートビューより「麺匠 八雲」本店 小さな建物ですが、3階まであるっぽい

 

 

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