中国人YouTuberの場合[下]—働いている職場での不正にどう対処すべきか・住んでいる場所の不正にどう対処すべきか[4](最終回)-(松沢呉一)
「中国人YouTuberの場合[上]—働いている職場での不正にどう対処すべきか・住んでいる場所の不正にどう対処すべきか[3]」の続きです。
またPooちゃんがやりやがった
チャイニーズチャイちゃんねるは好きでよく観ている(観ていた)ので、このチャンネルやPooちゃん個人を否定したいのではなく、批判を許さず、表現の自由も認めない国家がある時に、その国家を恐れて批判を避けながら、その国家を交えたテーマを語ると、その国家の宣伝マンと化す構造を理解して欲しいのです。そのサンプルとしてチャイニーズチャイちゃんねるは最適です。
これは日本人でも同じ。タブーを乗り越える勇気がないのであれば、その関連のテーマには「一切触れない」のがもっとも賢明かつ唯一の選択です。例外もあるかもしれないけれど、相当範囲に通用するルールではなかろうか。
中国人は帰国しないとの決断をしない限りは、国外に出ても政府の批判はできない。であるなら、褒めるようなことも言うべきではない。触れなければいい。そうである限りは、一在日外国人として見ることができるのですが、中国共産党の批判すべき点を批判せずにヨイショだけをする中国人は共産党の手下と見るしかない。そんなわかりやすいスパイはいないですけど、少なくともスパイ予備軍。
と思ったら、先日、こんなのがアップされていました。
これは完全にアウト。事実関係に大きな間違いがあって、その段階でアウト。
テロップも中国人への質問も、「なぜ中国人は日本人に嫌われているのか」になってますが、元の調査は「中国を嫌っている」という内容だと画面に出ているじゃないですか。この違いは大きい(コメ欄でも指摘されています)。
「中国が嫌い」という場合に「中国人が嫌い」を含む人たちもいるでしょうが、たいていは「政府」に重きがあり、少なからぬ人は政府だけを指します。たとえば私は中国共産党は大嫌いであり、このことをもって「中国が嫌い」とすることはありますが、中国人は嫌いとは言い切れない。好きな人もいますから。
「中国政府は好きですか、嫌いですか」と問われたら、迷うことなく「大いに嫌い」と答えますが、「中国人は好きですか、嫌いですか」と問われたら、「人による」と答えます。
間違った情報で憎悪を拡散しておいてマスコミ批判をする資格がどこにある
念のため、元の調査を探したところ、日本の言論NPOと中国の中国国際出版集団とが共同で行っている調査の本年度版です。言論NPOの会員にならないと正確な調査内容は読めないのですが、ざっくりとした内容はこれを取り上げた報道で読めます。
以下は2021年10月20日付「ハフポスト」より
中国に対して「良くない印象」を持つ日本人は90.9%と、2005年の調査開始以来、過去4番目に悪くなっていたことが、日本と中国の共同調査で分かった。
また、日本への印象を「良くない」と答えた中国人の割合は66.1%となり、前の年から大幅に上昇。印象が悪化に転じるのは8年ぶりで、調査を実施したシンクタンクは「米中対立もあり両国で安全保障に対する懸念が高まる一方で、この1年間では政府レベルの取り組みがなく不安が放置された結果だ」などと分析している。
(略)
日本側の悪印象の理由としては「尖閣諸島周辺の日本領海や領空をたびたび侵犯しているから」が58.7%でトップ。「中国が南シナ海などでとっている行動が強引で違和感を覚えるから」(49.2%)、「国際的なルールと異なる行動をするから」(49.1%)が続いた。
日本側の悪い印象の1位と2位は完全に政府レベル、3位はたとえば「日本に来ている中国人観光客や在日中国人の振る舞い」など民間レベル、中国人レベルの行為を指す可能性もありますが、おそらくこれも政府レベルの内容が中心でしょう。たとえば「国際法を守らない」ってことです。
チャイニーズチャイちゃんねるはこれを曲解して拡散するのですから、手間暇かけて調査する意味がない。ただたんにチャイニーズチャイちゃんねるがうっかりした可能性もありつつ、疑う気になれば疑えます。
路上で在日中国人に「中国という国が嫌われているのはなぜか」と問うと、尖閣や東シナ海だけでなく、香港、ウイグル、チベット、内モンゴルの話題が出てきてしまうかもしれない。そんな話が出てきたらカットすればいいのだけど、予め出にくくするために「中国が嫌い」を「中国人が嫌い」ということにしておいた可能性もあります。
「お笑い系のYouTuberがシリアスなテーマを取り上げてはいけない」なんてことはなく、お笑い系であっても、シリアスなテーマをやるならそれ相応の慎重さが必要であり、事実関係をねじ曲げたら、その時点でアウトです。試合終了。
「西側のマスコミが悪い」は習近平の主張そのもの
内容も問題あり。
1番目の中国人2名は「マスコミの誘導」と言っていますが、チャイニーズチャイちゃんねる自身が、間違った情報を元に憎悪の増幅をやらかしています。マスコミを批判するなら、メディアである自分ら自身がまず事実を重んじろ。
2番目の人もマスコミと言ってます。
実のところ、これは中国の公式見解そのものです。都合の悪いことはすべて西側のマスコミのせい、「報道の自由」のせい。
習主席、「報道の自由」は誤り 西側メディアを激烈批判
【北京共同】中国の習近平国家主席が2016年の国内報道関係者との会合で西側メディアについて、イデオロギー的偏見に基づき中国の政治体制を攻撃しており、絶対的な「報道の自由」などというものは誤りだと激しくののしっていたことが12日までに分かった。中国で先月出版された習氏の発言集で判明した。
発言集は13~20年の発言をまとめた「党の宣伝思想工作を論ず」(中央文献出版社)。習氏は16年2月19日の会合で「西側メディアは(1)他国のマイナス面(2)スキャンダルや暴力(3)針小棒大なニュース―ばかり報じている」と批判した。
——2020年12月12日付「共同通信」
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