松沢呉一のビバノン・ライフ

ケルリのセクシー表現は誰に向けているのか—ヴィルジニー・デパント著『キングコング・セオリー』[追加編 1]-(松沢呉一)

議員が唇を赤くして性的アピールをしながら、他者の性的アピールを潰したがる理由—ヴィルジニー・デパント著『キングコング・セオリー』[7]」に出てきたテーマの続きです。

 

 

中国の美大生による実験

 

vivanon_sentenceそんなに面白いと思わないですが、ちょっと注目した点があります。

 

 

 

彼女は美術大学の学生だそうで、卒業制作として、社交界の名士のフリをしてホテルや空港で受けられる無料サービスを利用し、リッチな生活をした21日間の実験の様子を公表。ちょっとレベルの高いホームレス生活です。

彼女の顔を見た時に印象的なのは、このためなのかどうかわからないですが、鼻をアートしているっぽいことです。失敗とまでは言わないけれど、わかりやすすぎかと。

そして口紅です。赤い唇にすると女としてのメリットを受けられるってことですね。それを利用しようとしたことを批判しようとは思わないし、「そうである社会」を見せる意図は十分に果たせているでしょう。

 

 

ケルリの表現

 

vivanon_sentence議員が唇を赤くして性的アピールをしながら、他者の性的アピールを潰したがる理由—ヴィルジニー・デパント著『キングコング・セオリー』[7]」に書いた「1980年代以降、女が自分の存在をセクシーに見せていくようになったのはなぜか」というテーマが尾を引いています。

そのヒントになるかもしれない存在がひらめきました。エストニアのケルリです。もっと日本でもポピュラーな存在で、適切なサンプルがいるかもしれないですが、私にとってはもっともわかりやすい例がケルリでした。最近はあまり積極的な活動をしていないようですが、私はケルリが好きで、「ビバノン」でも何度か言及しています。

初期の彼女は厨二病的世界観を展開していました。

2009年の「Walking On Air」。

 

 

 

自分を人形に重ねて、大人になること、生身の人間であることを拒絶する表現に見えます。摂食障害やリストカットに通じそうな路線。

 

 

プロテストに転じる

 

vivanon_sentenceしかし、まもなく彼女はプロテストを開始します。

2010年の「Army Of Love」。

 

 

トラメガ・プロテスター。引き籠もりだった彼女がプロテストの先頭に立っています。一瞬なので、ポーズにしないと読み取れないですが、彼女は連帯を呼びかけています。

 

 

 

この頃から腹も脚も露出するMVが増えます。腹や脚を出してブランコしている彼女の肩から銃弾のホルダーがぶら下げられています。肌の露出は闘いの意思表示です。ジャンヌ・ダルクを描いた絵画では肩や乳が出ているのと同じです。夫のため、子どものために秘めておかなければならない肉体とは違う肉体の表示なのです。

 

 

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